明治末期の異世界へようこそ――『徳川慶喜公への斬奸状(ざんかんじよう)』著者新刊エッセイ 須田狗一

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徳川慶喜公への斬奸状

『徳川慶喜公への斬奸状』

著者
須田狗一 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912369
発売日
2018/08/22
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

明治末期の異世界へようこそ

[レビュアー] 須田狗一(作家)

「島田荘司選 第9回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」をいただきました前作『神の手廻しオルガン』に続く第二作です。舞台はがらりと変わって、明治四十三年の東京市十五区。徳川慶喜公の周辺で起きる殺人事件を、小石川署の小川巡査部長が追いかけます。

 どうしてよりによって明治なのと首を傾げる方もおられるかもしれませんが、実は、奇才ぞろいのミステリー作家の諸先生方に伍して本を出版するために、私はひとつの作戦を練っていました。日本では翻訳されていない海外の推理小説をモチーフにしてミステリーを書けば、独自色のある作品に仕上がるだろうという作戦です。第一作は、その作戦の賜物というわけです。

 しかし、二作目を書くに当たって、編集部の「引き出しは多いほうがいい」という助言から、私はふと徳川慶喜公のことを思い出したのです。徳川慶喜公は、鳥羽伏見の戦いのさ中に突然江戸に逃げ帰ったことから、歴史家からも作家からも、きわめて評判は悪い。一方で、慶喜公と同じ時間を生きた日本資本主義の父、渋沢栄一は、自費で『徳川慶喜公伝』を出版するほど慶喜公に傾倒していました。このギャップはいったいどこから来るのか。これこそが、明治維新の最大のミステリーではないか。

 そう言えば、明治時代の日本は、現代人にとっては、海外と同様にエキゾチックな「異世界」……。というわけで、東京を舞台にした本作を書き始めたわけですが、悲しいかな、大阪生まれの私は東京の地理にとんと疎い。小石川がどこで、千駄ヶ谷がどこなのかもわからない。頭の中が真っ白になりながらも、インターネットで見つけた明治四十三年の東京市街図や東京市の路面電車の路線図とにらめっこの毎日。

 さて、幕末の影が残る入り組んだ東京市の迷路の果てに小川巡査部長が突き当たった衝撃の結末とは……。ぜひ、ご一読ください。

光文社 小説宝石
2018年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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