「移住人気」と「定住しやすさ」は無関係? 「田舎暮らし」を成功させるための3つの鉄則

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誰も教えてくれない田舎暮らしの教科書

『誰も教えてくれない田舎暮らしの教科書』

著者
清泉 亮 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784492223826
発売日
2018/07/06
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「移住人気」と「定住しやすさ」は無関係? 「田舎暮らし」を成功させるための3つの鉄則

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

誰も教えてくれない田舎暮らしの教科書』(清泉 亮著、東洋経済新報社)の著者は、22歳だったおよそ20年前、長野の佐久に初めてアパートを借りて「週末移住」を始めたという経験の持ち主。

以後も数年単位で拠点を変えつつ、日本全国10カ所ほどを転々と移り住んだのだそうです。

本人の言葉を借りれば「勢いにまかせた移住、転住ばかりを繰り返していた」わけですが、中年に入り、いよいよ本格的に地方に腰を落ち着けようと考えたとき、「移住慣れしている」という自信がくじかれてしまったのだとか。

永住を視野に入れた「根ざした移住」を前提にした瞬間に、小さな集落、日本中の地方は、都会人に対してガッチリと、かたくなに心の扉を閉ざしていることに気付かされたのだ。

訪問者、通過者から定住者になったとたんに、地方の者は素の相貌(そうぼう)を、初めてこちらに見せるのだった。

住めば都ーー。日本ではそんな言われ方があるが、それはあくまでも本人の心の持ちよう次第であって、本質は、住めば地獄、であることさえ少なくない。むしろそのほうが多いだろう。 日本列島はどこまで行っても、ムラ社会であるからだ。(「はじめに」より)

いわば、「まずは飛び込んでから考えよう、なんとかなるさ」ではあまりにリスクが大きすぎるということ。なぜならムラ意識とは、究極には無条件に習慣を踏襲し、全体に一切抗わない生き方だから。

自分自身が何十年と培ってきた習慣や価値観はたやすく変えられないものですが、それは移住先の人々も同じだということ。そのため、著者がたどり着いた覚悟は、次の一言に集約されるといいます。

最悪の状況を理解すること、想定することに勝る成功への王道はないーー。(「はじめに」より)

そこで本書において著者は、「移住者」としての立場から身につけた、田舎暮らしのためのノウハウを明かしているわけです。きょうは第7章「田舎暮らしを快適にする7つの法則」に焦点を当て、3つを抜き出してみたいと思います。

移住人気と定住しやすさとは一致しない

著者によれば、移住希望者が得てして誤解しがちなのが「移住地人気ランキング」。ランキングにはそれなりの裏づけや説得力があるものの、それはあくまでも移住するまでのランキングであり、定住してからの人気ランキングとは異なるということです。

しかもランクづけの大半が、その点に触れていないのだといいます。

いまの移住ブームは、「移住はしたがその後は?」という評価の段階であり、つまりは「流入から定着へ」という第2期に突入しているということ。そして「移住すれども定住せず」が、今日までのひとつの大きな流れとなりつつあるのだそうです。

具体的には、移住しても10年いられれば大成功。しかし、ほとんどの場合は10年どころか、4、5年しか居つかないというのです。

また、10年以上住んでいる人のなかには、その土地に惚れ込んだという積極的な理由による定住よりも、「長期ローンがまだ残っているから」などの理由で仕方なく住み続けているという場合も。

定住評価をする際には、こうした経済事情が絡んだ背景の分析も必要だということですが、最初の段階でそれを見抜くのは困難。

そこで、まずは「移住人気地がそのまま定住人気地ではない」という大原則を、頭に入れておく必要があるというのです。

移住と定住は、心理的な段階としても、生活環境としてもまったく異なる2つの次元。裏を返せば、移住希望者には「移住段階での成功」「定住段階での成功」が求められるということです。(237ページより)

集落移住ならば、まずは“借住”で

近年の移住ブームもあり、移住組を歓迎している集落も少なくないもの。ところが、都会の感覚が通用しないのが集落の生活だと著者は指摘しています。

集落は、極めて相互監視の強い場所である。家の出入りから日常の暮らしぶりまで、全てが筒抜けになる。

集落に永住用の土地や家屋を購入して成功できる人間は、元々その土地に地縁血縁のある者か、出身者であると考えたほうがいい。(239ページより)

最近ではIターン、Uターンの出身者でさえ、都会の感覚に慣れてしまい、集落では大きなトラブルを生みつつあるのだとか。

そうした地縁血縁のある人でさえ住みづらさを感じるのだから、突然、土地や建物を購入したり新築したりして、その後も「私は私」と素知らぬ顔で暮らしていけるとは考えないほうがいいというのです。

濃密な人間関係と強い互助意識のなかにこそ身を置きたいという人もいるでしょうが、そこを離れたいと思ったとき気軽に離れられる最後の安全弁は確保すべき。

なぜなら、なにがきっかけで、決定的に集落内で孤立し、人間関係の軋轢に悩まされるかわからないから。極論を言えば、集落にいる限り、自分がいつ村八分になるかわからないという覚悟が必要だということ。

特に危険なのが、古民家への移住。地方の人が土地を手放すということは、もうその土地には住み続けられないといった事情が背景にあるということ。

だからこそ、集落でいきなり物件購入することは危険だというのです。その土地に、若い者や新入りをいびり、追い出す傾向があった場合、その後、そうした購入物件をうまく売却できる保証もないはず。

そこで注目すべきが、いつでもその場を離れられる「賃貸移住」。本当にもうこりごりだ、ここを離れたいとなったとき、賃貸ならばらくだという考え方です。

著者が経験的にオススメしているのは、市営や村営などの公営住宅。都市圏とは違い、地方での公営住宅は「順番待ち」「抽選次第」ということはほとんどないもの。

しかも最近では、公営住宅とはいえ最新の戸建て住宅並みに設備が充実したものが少なくないのだそうです。

集落移住であれば、まずはそうした公営住宅に入居し、そこに住みながら周囲を見極めていくことが成功への最短距離であるというわけです。(239ページより)

収入にかかわらず、必ず副業を持て

田舎暮らしを始めたら、嘱託であれ必ず副業を持つべきだそうです。灯油にLPガス、ガソリン、割高な食材購入と、とにかく都会生活以上に生活費がかかるから。

さらには家屋の老朽化や補修、手入れにもコストはかかるため、1円でも2円でも必要に感じる瞬間が訪れるというのです。

昔の人が季節変化の激しい地方の日本家屋で暮らしてこられたのは、稲作から屋根の葺き替えまで、徹底的な集団互助の「結(ゆい)の精神」でやってきたからこそ。

ところが移住者には、そんな結の恩恵が期待できないため、また、なにかを頼んだとしてもタダではすまないので、経済力がものをいう局面が訪れるというのです。

2カ月に一度の国民年金だけで回るはずはなく、地方の雇用はどうしても地元民優先になりがち。

地元民を押しのけての採用は、結果として反感や軋轢を生み、潜在的な生活リスクになりうるのだといいます。だからこそ、人知れずに収入が得られる副業を持っていることが大切だという考え方。

いまの時代、インターネットさえ通じていればどこでも仕事は可能です。そういう意味において、年齢に関係なくスキルとして重宝される翻訳家やデザイナーなどの職種の人々は、田舎暮らしも成功しているケースが多いそうです。

ただしそうしたスキルはすぐに身につくものではなく、キャリアや人間関係がものをいうので、移住後に「都会からの遠隔地」という状況がハンディにならない仕事のスキルを高めておくことが重要。

その点でも歓迎されるのは、保育士学校の先生など。育児経験のある方は地域の子育て支援での職に声がかかりやすく、学校の先生であれば、補習塾の講師をしたり、あるいは塾を開いたりと、従前のキャリアが活かせるわけです。

そこまでの資格もキャリアもないという方であっても、多少の留学経験や駐在経験があれば、地域の英語教室で補助をしたりすることなどは可能。

現在、外国語教育については、地方でも都会並みに熱心だというのです。「いずれは東京や大阪に出て就職させなければいけない」という逼迫感の強い地方の教育熱と危機感が、都会とはまた違った教養への枯渇感を生んでいるというのがその理由。

公立校の質が高い場所は、学習意欲も高く、教育関連事業の求人やニーズも大きいもの。都会ほど教育、補修の選択肢が少ない地方では公立教育の質が高いのだそうです。

また、都会からの移住人気がある場所は、都会者のニーズをも満足させる図書館などの知的インフラが揃っている場所が多いのだといいます。

高原野菜で知られ、村民全体の所得水準が極めて高いことで知られる長野県の川上村なども、移住民の流入が活発な場所として知られる。

そこは、図書館も24時間稼働するなど、都会顔負け、都会のインテリたちも納得の知的インフラが揃っている。 それなりに都会や会社組織で活躍してきた移住者は、当然ながら知的水準が高い。

つまり、田舎暮らしを好み、田舎暮らしを実行する余裕のある者は、もとよりかつての別荘族以上の、いわばインテリ層が占めているのだ。(250ページより)

だからこそ、副業の持ちようはいかようにもあるということ。そこで、「いずれ移住を」と考えはじめた段階から、地方でもできる副業を考え、そこへの道筋をつけておくのがいいそうです。

それもまた、移住にあたっての大事な“準備すべきこと”のひとつだから。(248ページより)

「理想の田舎に出会う秘策」「後悔しない物件探しの秘訣」「知らないとヤバいお金の話」「複雑な人間関係がうまくいく秘訣」などなど、実体験に基づいた情報満載。本気で移住を考えているのであれば、あるいは移住に憧れを持っているのであれば、ぜひとも読んでおきたいところです。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年8月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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