人間のおぞましさも描く怪談ミステリ『碆霊(はえだま)の如き祀るもの』 三津田信三

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碆霊の如き祀るもの

『碆霊の如き祀るもの』

著者
三津田信三 [著]
出版社
原書房
ISBN
9784562055814
発売日
2018/06/28
価格
2,090円(税込)

人間のおぞましさも描く怪談ミステリ

[レビュアー] 円堂都司昭(文芸評論家)

 探偵小説作家でありつつ、日本各地の怪異譚蒐集の旅先で何度も不可思議な事件に遭遇し、優れた推理能力を示してきた刀城言耶(とうじようげんや)。三津田信三『碆霊(はえだま)の如き祀るもの』は、そんな刀城が活躍するシリーズの最新作だ。民俗学的要素をとりいれたこのシリーズは毎回、探偵役によって謎が合理的に解決されるものの、割り切れない出来事はなおやまないといった形をとる。ミステリであると同時にホラーでもあるのだ。今回もそれは変わらない。

 五村からなる強羅地方は、山と海に囲まれ交通がえらく不便な場所であった。この地には怪談があった。犢幽(とくゆう)村には江戸時代の「海原の首」、明治時代の「物見の幻」、昭和戦前の「竹林の魔」、閖揚(ゆりあげ)村には戦後の「蛇道の怪」と、それぞれ違う時代を舞台にした話が伝わっている。そして、敗戦からまだ十年程度の作中の現在で、四つの怪談をなぞったような連続怪死事件が発生する。しかも、現場はいずれも密室状況だった。

 五百数十頁の長編だが、刀城が登場し本題の事件が語られる前に、百二十頁を使ってあらかじめ四つの怪談が語られる。話の一つひとつが怖い。海流の強さ、山道の険しさ、水、風、気配。そうした自然現象や超常現象のもろもろを皮膚感覚として読者に植え付ける描写になっている。そのことが、続いて語られる現在の事件の臨場感を高めることにもつながっている。前置きの長さには意味があるのだ。

 シリーズ恒例の二転三転する推理があって事件の謎は解かれる。だが、それとともに明かされる貧しい村の過去には、人間の現実のおぞましさがあって別種の怖さがある。本書の幕切れも印象深いものだ。

光文社 小説宝石
2018年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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