謎解きと人間ドラマが交差する骨太警察小説『マトリョーシカ・ブラッド』呉勝浩

レビュー

3
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マトリョーシカ・ブラッド

『マトリョーシカ・ブラッド』

著者
呉勝浩 [著]
出版社
徳間書店
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784198646530
発売日
2018/07/21
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

謎解きと人間ドラマが交差する骨太警察小説

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 猛暑も忘れて、久方ぶりにずんとこたえる警察小説を読んだ。

 物語の発端は、神奈川通信指令センターに、〈五年前、陣馬山に遺体を埋めた〉という匿名の電話がかかってきたことからはじまる。

 それだけでも剣呑なのに、通報者は、〈埋まっているのは香取冨士夫だ〉と言うではないか。

 七年前、東雲総合病院で、治療中の癌患者五名が急性多臓器不全に陥り、立て続けに死亡する、という事件が起きた。その原因といわれたのが、ムラナカ製薬開発の抗癌剤サファリであり、病院はこの新薬を積極的に導入していた。病院側に自殺者まで出したこの一大スキャンダルのキーパーソンが、五年前に失踪した内科部長・香取だったのである。

 地中から掘り起こされた白骨死体は、果たして香取であり、死体の傍らには、謎の薬物の小瓶が納まったマトリョーシカが埋められており、さらにMというこれまた謎の文字が――。

 続いて八王子で、次の死体が発見され、ここにも第二のマトリョーシカがあり、その中にはとんでもないものが隠されていた。

 香取の失踪にある事情から負い目を感じている彦坂刑事をはじめとする神奈川県警の男たちと、個性豊かな警視庁の一匹狼たちが、反省から和解へ、そして事件解決へと向かうダイナミックな展開は読んでいて興奮させられる。

 また、犯人側から題名をつけるならば、本書は“哀しみのマトリョーシカ”であり、謎解きの興味と、人間ドラマが読みごたえを倍加させている。

光文社 小説宝石
2018年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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