『生きるとか死ぬとか父親とか』
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『ビロウな話で恐縮です日記』
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『生きるとか死ぬとか父親とか』&『ビロウな話で恐縮です日記』刊行記念対談 ジェーン・スー×三浦しをん「父とかビヨンセとかビロウな話とか」
[文] 新潮社
ジェーン・スーと三浦しをん
6月23日に青山ブックセンター本店で行われたトークショーを採録。お互いの新刊や家族、あのポップ・スター、ヤンキーまでを語ります。
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残念&ド腐れ
スー 本日はお足元の悪いなか、私たちの結婚会見にお集まりいただき、ありがとうございます。
三浦 まずは、出会いから結婚に至るまでの経緯の説明をさせていただきます。……まさか本気に取る人はいないと思いますが(笑)
スー はい(笑)。最初は、しをんさんのイベントにお誘いいただきまして。
三浦 二〇一五年に『あの家に暮らす四人の女』(現在は中公文庫)という小説を出したのですが、その刊行記念のトークイベントでしたね。単行本の帯コピーは「ざんねんな女たちの、現代版『細雪』」というもので、「だったら、スーさんかな?」と(笑)
スー 光栄です(笑)
三浦 それまでお会いしたことはなかったのですが、スーさんのエッセイが好きだったので、楽しくお話ができるんじゃないかと思ってお願いしたら、快く引き受けていただいて。
スー 「有名人に会える!」と喜び勇んで参りました。
三浦 いやいやいや。この小説は、女性たちの共同生活を描いた小説で、スーさんの『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)に収録されている、団地を買い取り、女たちだけで一緒に暮らすことを提案したエッセイを読んで、「これが理想だ!」と。
スー その文庫版の解説もご執筆いただき、ありがとうございます。
三浦 その後、ご飯にも行きましたよね。大久保のタイ料理屋さん。
スー はい。それから私のラジオ番組「週末お悩み解消系ラジオ ジェーン・スー 相談は踊る」にもご出演いただきました。
三浦 あれも楽しかったです。私はTBSラジオを聞くことが多くて、今スーさんがMCをしている「ジェーン・スー 生活は踊る」も楽しく聞いています。
スー ありがとうございます。そして、私が新刊『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)を出すにあたり、ぜひまたお話をしたいと、今回お願いした次第です。ちょうど同時期に刊行された『ビロウな話で恐縮です日記』(新潮文庫)の解説を私が担当したというご縁もあり。
三浦 素晴らしい解説をありがとうございました。
スー 「三浦しをんはド腐れている」なんて書いちゃって大丈夫だったでしょうか。しかもその文言をわざわざ帯に大きく引用しているし。
三浦 ノー・プロブレムです。本当のことだから(笑)
スー というのが、二人が今回結婚に至るプロセスで……って、もういいですかね(笑)
いつも心にビヨンセを
スー ずっとお忙しそうですが、しをんさんはいくつになるまで働きますか?
三浦 今すぐやめたいですよ(笑)。そもそも私たちのような仕事は定年がないじゃないですか。それが問題ですよね。
スー ひとりブラック企業状態。雇い主も被雇用者も自分という。
三浦 「自作自演ブラック」です。
スー そうそう。勤め人と違って、「労基」(労働基準監督署)がないから、どこにも駈け込めない。今すぐやめたいと思っても、じゃあ明日からの生活はどうする? という問題もあって。
三浦 本当ですよね。ちょうど昨日ですが、乗車したタクシーの運転手さんと「ロトで八億円当たったらどうするか?」という話で、盛り上がったんです。
スー いいですね。それ聞きましょう。
三浦 運転手さんと私は旅に行きたいと。日本国内の高級旅館や世界中の高級ホテルを泊まり歩いて一生を終える。
スー それだと、あっという間になくなりませんか?
三浦 そもそも八億円がどのくらいのものなのかがわかりませんが(笑)
スー 確かに(笑)。私はまず家を買いますね。この本でも書きましたが、私は約十年前に実家を失い、いまだにそのトラウマがあるんです。私もよく「宝くじが当たったらどうする?」という話をするのですが、金持ちの人は、投資してその利息で暮らすと。元本を減らさない。
三浦 その発想はなかったな!
スー その日暮らしの我々とは、考え方が根本的に違うんです。高級ホテルに泊まり歩いていると、おそらく次は移動手段としてプライベートジェットが欲しくなり、それに手を出すと八億円なんてあっという間になくなるはず。
三浦 たまたま調布飛行場の駐機代を聞いたことがあるのですが、月に六十万から百数十万円ほどかかるそうです。
スー 今一番私生活にいくらかけているのか知りたい人は、ビヨンセですね。
三浦 間違いない。私もビヨンセのことはかなり頻繁に考えています。羨ましいというわけではなくて、貴い珍獣を見る気持ちに近いかもしれない。
スー エンターテインメントをどんどん追求していて、世界中の人を驚かせていますが、それでいてどこか「面白い」んですよね。
三浦 その「面白い」に中毒性がある。
スー テキサス出身だけあって、南部独特の感じがまたよくて。中西部出身のマドンナとは違いますね。
三浦 確かにマドンナには「面白い」というような隙はないですね。
スー ビヨンセがやっていることは間違いなく恰好いいんだけど、どこかちょっとクスッと笑える過剰な部分があって、そこが好き。例えば、今のアメリカの音楽シーンのトップランナーとしてリアーナの名前も挙げられますが、ビヨンセとはテイストが違いませんか?
三浦 違いますね。
スー ビヨンセは“女軍隊”という感じですが、リアーナはもっと“個”という感じがします。
三浦 ビヨンセはひとりでも“軍”なんだ(笑)
スー ハイエンドな文化にコミットしていこうとしているけど……
三浦 何かが少しずれている(笑)
スー そうそう。出身地が左右している話ではないとは思うのですが。
三浦 でも、どの地域に生まれ育ったかというのは、大事ですよね。それはスーさんの新刊を読んで感じたことでもあります。文化の香りみたいなものを背景に感じました。スーさんもお父さまも文京区という東京の中心近くで生まれ育っていて、その感じがよく出ている。私も東京生まれ東京育ちですが、世田谷の奥の方で生まれて、その後は町田。川崎から町田、立川のラインを「ヤンキー輩出ベルト」と勝手に呼んでいるのですが、とにかく無尽蔵にヤンキーを産み出す地域。
スー ヤンキーのエリートが育つ地域!
三浦 世田谷も、下北沢や三軒茶屋は文化的活気があるし、二子玉川あたりはハイソですが、私が生まれ育った地域は、もともと畑と雑木林ばかりあったところで文化の香りがしない。町田は、デパートやレストランも多いですが、それはそれで成り上がり感が強いというか、ビヨンセ感がある(笑)
スー 「ビヨンセ=町田」説(笑)
三浦 一方で、町田は昔からリベラルな政治風土です。今は自民党系の市長ですが、それまではいわゆる革新系の市長が長く務めていました。つまりヤンキーとリベラルが共存する不思議な地域です。
スー なるほど。それは面白いですね。
三浦 その感じがまたビヨンセっぽい。洗練されたおしゃれな感じに憧れているけど、やっていることはどうしてもヤンキー色が強くなるところとか。ビヨンセもフェミニズムを積極的に訴えていたり、政治的には完全にリベラルでしょう。
スー まさに。ところで日本では、ヤンキーを魅了しないと物は売れませんよね。
三浦 ヤンキーを制する者は、天下を制する。「天下人」といえば織田信長で、あの人も完全にヤンキー気質ですね。
スー ヤンキーでオラオラ系ですね。でも、私たちにヤンキー要素はない。
三浦 はい。ヤンキーっぽいものは、どうしても書けません。
スー 盛る、という意味では今のインスタグラム人気も形を変えたヤンキー文化かもしれません。昔みたいに「短ランにリーゼント」とか、わかりやすく記号化されているわけではなくて、ヤンキーが平準化・偏在化しているのかもしれません。