『大江健三郎全小説 3』 大江健三郎著

レビュー

3
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大江健三郎全小説 第3巻

『大江健三郎全小説 第3巻』

著者
大江 健三郎 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065090008
発売日
2018/07/10
価格
5,400円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『大江健三郎全小説 3』 大江健三郎著

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

時代を予兆する作品

 全15巻シリーズの初回配本で、一九六一年から六四年に発表された短篇(たんぺん)・中篇を中心に収める。『セヴンティーン』第二部にあたる「政治少年死す」が、雑誌掲載から57年後に書籍化されたのだから、これは文学的事件だ。出版自粛の経緯は懇切丁寧な解説に譲るが、それは深沢七郎『風流夢譚(むたん)』、三島由紀夫『憂国』、大江健三郎『セヴンティーン』二部作が次々と発表された時期であった。

 『セヴンティーン』は、「今日はおれの誕生日だった、おれは十七歳になった」で始まる一人称小説。「世界のなにもかもが疑わしく」、家庭では孤立、優等生に「むかつく」「惨めで醜いセヴンティーン」が、ラップさながら(?)、ニール・セダカの〈おお!キャロル>に乗せて閉塞(へいそく)感を独白。やがて右翼「皇道派」に加入し、「凶暴な」セヴンティーンたることにオルガスムを感じる。第二部(「皇道派」が「皇道党」と変わる)では、「純粋天皇」との一体化を夢想して政治家を刺殺した「おれ」が、「選ばれた少年」として「恍惚(こうこつ)」のうちに自死する。性・政治・テロリズムの結合、死による絶対者との合体願望、まさに今日的テーマだ。

 『セヴンティーン』(第一部)の構想は、現実の刺殺事件以前に遡る。その後も『洪水はわが魂に及び』と連合赤軍事件、『燃えあがる緑の木』とオウム真理教事件等、大江作品は予兆的であり続ける。「自分の文学的な想像力」が、「同時代によってそこへ追いつめられていた」と作家は告白する(「宗教的な想像力と文学的想像力」)。なお「政治少年死す」は、二〇一五年に独訳(修士論文に添えられた翻訳)、翌年に仏訳が出ている。本書はドイツ人研究者による「政治少年死す」論を訳載、海外の論考を収める編集方針は大江という「世界文学」にふさわしい。かつての大江ファンはむろん、二一世紀を生きる若者にも強く奨(すす)めたい。

 「ヴィリリテ」など三短篇も初めて刊行。

 ◇おおえ・けんざぶろう=1935年、愛媛県生まれ。東大在学中に22歳でデビュー。94年にノーベル文学賞受賞。

 講談社 5000円

読売新聞
2018年8月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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