<東北の本棚>惑い・葛藤心の風景描く

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線量計と奥の細道

『線量計と奥の細道』

著者
ドリアン助川 [著]
出版社
幻戯書房
ISBN
9784864881517
発売日
2018/06/29
価格
2,420円(税込)

<東北の本棚>惑い・葛藤心の風景描く

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災、福島第1原発事故で被災した東北地方を、芭蕉が歩いたルートに沿って旅した。被災地の暮らしや、人々の惑いと葛藤を見る。放射線量計を携え、各地で計測しながら歩いた。「その結果が、被災者を傷付けることにならないか?」。自身も惑い、葛藤する。被災者と著者、双方の心の風景をつづった。
 スタートは震災発生の翌2012年8月、深川(東京都)を自転車でこぎ出し、白河へ。仙台、平泉、酒田、北陸地方を経て終点は大垣(岐阜県)。4カ月、全行程2000キロに及ぶ。
 福島盆地を行く。売れないモモを前にして、農家の奥さんたちが炎天下に座り続けていた。復興に向けて立ち上がろうとしている人たちにとって、放射能汚染は触れてほしくないものだろう。それでも自分は線量測定をする。「(放射能汚染の問題について)忘却があってはならない」「原発大国に戻ろうとしている今、データを公表することは意義ある行為ではないだろうか」。とは言いつつも福島から宮城県境へ差しかかる上り坂、「この坂は苦しかった」と汗をかきかき自転車をこぐ。
 多賀城へ。駅近くに津波に押しつぶされたままの車が積まれていた。芭蕉が憧れた多賀城碑を見る。その後、塩釜神社へ。市街地は津波の被害を受けたが、碑は丘の上に、神社は長い階段の上にあり、津波は来なかった。古人は、天災を免れる場所に神社仏閣を建てたという。ではあの原発事故は何だったのか。「想定外ではなく、想定していなかっただけではないか」
 芭蕉の旅から300年以上過ぎた。象潟(秋田県)が陸地になったように、日本列島には数え切れないほど大地震の歴史がある。「危機はすぐ目の前にある」と警告する。
 著者は1962年東京都生まれ。作家。2001年の「うつくしま未来博」のテーマソング「永遠の心」の作詞者でもある。
 幻戯書房03(5283)3934=2376円。

河北新報
2018年9月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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