座談会 地方自治研究のあり方とは――『地方自治論――2つの自律性のはざまで』刊行に寄せて

対談・鼎談

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地方自治論

『地方自治論』

著者
北村 亘 [著]/青木 栄一 [著]/平野 淳一 [著]
出版社
有斐閣
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784641150485
発売日
2017/12/13
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

座談会 地方自治研究のあり方とは――『地方自治論――2つの自律性のはざまで』刊行に寄せて

[文] 有斐閣

企画の趣旨

北村 昨年12月に青木栄一先生と平野淳一先生と私の3人でストゥディア・シリーズから『地方自治論』という教科書を出版いたしました。本日は、金井利之先生をお招きし、本書をどのようにお読みになったのかを伺いながら、本書の特徴と地方自治研究のあり方などについてもお話ししていければありがたいと思っております。金井先生にはお忙しいところ、このようなお役目をお引き受けいただき御礼申し上げます。
 本書の狙いについては「はしがき」に書いたとおりなのですが、あくまで初学者には地方自治に関する情報をまんべんなく知っていただくことを目指し、公務員や地方自治関係者の方々には日々の仕事を取り巻くコンテクストを提示することを目指したわけです。あえて比喩的に申し上げますと、百貨店や大型ショッピングセンターではなく「街角のコンビニエンスストア」のような教科書を想定していました。その心は、高級ブランド品を扱うのでもなければ、目玉商品や多種多様な品を扱うわけでもありません。あくまで、定価販売で安定した品を幅広く扱う教科書というわけです。便利に、文字通りの地方自治研究の入口としてまずは参照していただけることを目指しております。
 このような試みが成功しているかどうか、3人とも非常に気になっております(笑)。そこで、金井先生にどのように本書をお読みいただいたのかというところから、まずお伺いしたいと思います。

金井 簡単に言えば、地方政府の主人公として首長と議会と地方公務員を設定して、その為政者側の目線で書き切ろうという、非常に意欲的な章立てにしているかなと思いました。規範的にはいろいろ問題がありうると思いますけれども、論理的には非常にわかりやすい構成です。

北村 サプライズがあったと伺いましたが。

金井 どちらかというと政治家を重視する北村さんたちが、「地方自治論」の教科書を、自治に携わる行政職員にも重点を置いて書かれたことには驚きました。ただし、行政職員に重点を置く書かれ方は、これまでの地方自治論研究の中ではむしろ主流派といえます。政策法務論や自治体学と呼ばれる研究では、良識的で抽象的な市民感覚をもった行政職員が、市民的な自治の研究者や知的水準も生活水準も高い市民とともに自治体を運営していく構想だったように思えます。自治体の職員を中心にした自治の主体形成論なのです。ただ、その人たちは中央の政官財の権力者たちには虐げられているという意味では、主体といっても半主体というところでしょうか。松下圭一先生や田村明先生、西尾勝先生なども職員向けの教科書をお書きになられたわけです。「植民地エリート主義」くらいですかね。おそらく、村松岐夫先生はそういう国政と直結したがる政治家を軽視する伝統が大嫌いだったと思います。その意味では、首長に焦点を当てて『地方自治入門』をお書きになった稲継裕昭さんのほうが平均的市民を代表した地方政治家が地方自治を担うという意味で、開明的職員の前衛主義を否定する村松先生の流れに沿っているように思います。しかし、村松先生の影響を受けている北村さんや青木さんが伝統的な主流派とも合流しているというのは驚きでした。

北村 決して地方自治研究の植民地エリート中心観を継承しているわけではありません。もちろん、復活も目指しておりません(笑)。首長、地方議会、そして職員の三者を地方政府の主人公としていますが、職員を政治的代表である首長や地方議員と同じ比重を置いて描いているのは事実です。

金井 もう1つの流れは、教育行政学の伝統的枠組みを見事に自治体研究の中に織り込んでいるということです。これは青木さんが意識的にされたのだと思います。教育行政学の系譜で言うと、第1の教育法関係と第2の教育法関係という枠組みがあります。第1の関係論とは教員と教育行政関係の議論で、第2の教育関係論とは教員・学校と生徒・保護者との関係の議論です。本書の枠組みは、教育行政学における枠組みとも重なり合っているのです。自治体職員をも主体に据えて政治家好きの近年の自治体研究に対して、北村さんが自治研究のオーソドキシーとの合流を目指して、青木さんが教育行政学における伝統的な枠組みを見事に継承しているという意味で、そういう位置付けだなというふうに私は読んだということです。

青木 以前に、村松先生が「団体自治」と「住民自治」に分けて考えるということには違和感があるとおっしゃっておられました。これが非常に印象に残っていました。ふたつには分けられないし、分けて考えるのは適切ではないということだと思うのです。本書ではあくまで地方自治体の最終的な責任者が選挙で選ばれているということが重要であって、委任関係を遡れば住民が重要だということになるのではないかと議論しています。選挙で選ばれた代表がどのような課題に直面しているのかということを描くのが重要だと考えたわけです。

金井 村松・稲継先生流の政治家好きの流れも無視していないということですね(笑)。ところで、枠組みを決める際に、先行する教科書などで意識したものはありましたか。

北村 私の場合は、『ホーンブック地方自治』と『テキストブック地方自治』です。とはいえ、前者には法律も制度も運用も実態が網羅的に書かれておりますし、後者には研究成果に基づいて制度の作用が描かれております。研究においては、まさに大型ショッピングセンターや百貨店です。ですので、ここにどのようにつなげていけばいいのかということが入門書としての課題だと思ったのです。
 本書は、最初の企画段階から明確に地方議会を中心とした地方政治の研究成果を取り込もうとしました。地方議会なくして地方自治体の決定は理解できないと思ったからです。このことは、決して植民地エリート主義ではないことの傍証になるでしょうか(笑)。そこで、この分野でご活躍の平野淳一先生をお誘いしたわけです。

平野 これまでの地方自治の教科書を見てみると、選挙のことに関しては一応触れられてはいるんですけれども、内実とかそういったことを踏まえた上でデータで細かく議論しているものがあまりないように感じました。住民参加も直接民主主義の説明も大事なんですが、僕としては、都市と地方でだいぶ違いはあるにしても、選挙がやはり重要だと思うんです。住民は選挙を通じてかなりの影響力を行使しているんじゃないかなという実感がありました。現職首長が負ける例とか、僅差で勝っても政治的に影響力をなくすみたいな話もあるんですね。そういったところをもっと知ってほしいということで、選挙の話や地方政治家の話を細かく書きました。

初学者向けの教科書づくり

金井 教科書というのは、ちょっと矛盾する側面を持っていますよね。初学者に対して満遍なく知識を提供しなければならないですが、他方で、教科書だからこそただ雑然と知識が出されても困るので、体系的な視座を提供する必要があります。すると、体系的な視座を提供しようとして、こぼれ落ちるものがどうしても出てきます。このあたりが非常に矛盾する試みだと思います。法律学でよくいう教科書と体系書の違いですね。体系書を目指すと教科書にならず、教科書を目指すと体系書にならずというところです。

北村 私自身は「はしがき」に書きましたように、大胆にそぎ落とすことにしました。本書では歴史的経緯も国際比較もありませんし、市民も利益団体もアクターとして取り上げていませんし、事例も教育と福祉だけしか取り上げていません。
 私自身は、あくまでミニマムな情報で読者の関心を最大限にするというつもりでおりました。決して重要ではないという意味ではなく、それらは重要だからこそ、次のステップに進んでもっと勉強してほしいと思っています。この点は、青木先生や平野先生にもご賛同を得て、割り切って執筆をはじめました。

青木 テキストづくりという観点で言うと、やっぱりテキストは大学教育で使うことが多いでしょうから、そのときに「20歳前後の学生の社会科見学」だと意識したんですよね。例えば、首長という人がいるのはわかっているけれども、どういうふうに選ばれて、どんな日常を、どういう業務をしているのだろうかということをわかるようにしたいと思ったのです。7頁に「首長の1日」、あるいはその隣に「知事室の様子」というのがあります。こういうものを見せることで具体的なイメージが湧くようにしたいと思いました。そうすると、授業でゲストスピーカーとして首長や議員、職員を呼べない場合でも、ゲストスピーカーをお招きしたときと同じ機能を果たせるのではないかと考えました。そう考えると、首長と議員と職員が、実際に「見える存在」で、教科書に盛り込むべきアクターなんだろうなあと思うんですよね。逆に言うと、周辺的と言っていいのかわかりませんが、市民団体とかそういうアクターはなかなかまだ「大人の社会科見学」の対象になりにくいのかな、なんていうふうに思いましたね。
 あとは、第4部は、ディマンド・サイドよりもサプライ・サイド目線を強く意識したと思います。教育、福祉というのは対人サーヴィスの提供です。そうすると、実際に執行している職員やその背後で決定を行っている首長や議会が中心になります。そういうことから考えると、金井先生のおっしゃるように本書が統治者目線あるいは為政者目線だというご指摘は、改めて考えると、当たっているかなと思いましたね。

大阪大学大学院法学研究科教授=北村亘/東北大学大学院教育学研究科准教授=青木栄一/甲南大学法学部准教授=平野淳一/東京大学大学院法学政治学研究科教授=金井利之

書斎の窓
2018年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

有斐閣

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