著者は北海道の羊飼い 数代にわたる人と馬の物語

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著者は北海道の羊飼い 数代にわたる人と馬の物語

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 著者は北海道の羊飼い。読めばそうした実生活を営む人間だからこそ書けた作品ではないか、とつくづく思う。河崎秋子のデビュー作『颶風(ぐふう)の王』のことだ。2014年に三浦綾子文学賞を受賞、翌年度JRA賞馬事文化賞を受賞している。

 数代にわたる人と馬の物語である。始まりは明治期の東北、許されぬ恋で身ごもってしまったミネ。相手は村人に殺され、自身は逃れる途中で愛馬アオとともに雪洞の中に閉じ込められてしまう。日々が過ぎ、極限状態の中で、ついにミネはアオを……。この一連の場面がとにかく秀逸。

 その後、ミネが産んだ捨造は貧しい暮らしと決別するため、アオの孫にあたる馬と北海道・根室へ。人も馬も、血を引き継いでいく。雄大な自然、動物たちの逞しさ、そして北の地で人間が生きることの厳しさと難しさ。読んでいるこちらの指先も凍えそうなリアリティを感じながら、圧倒的な光景に打ちのめされ、やがてすべてが尊く思えてくる。紛れもない傑作。

 馬と人の共生といえば、身近なのは競馬だろう。宮本輝『優駿』(新潮文庫、上下巻)などの名作もあるが、最近では女性騎手を描いた古内一絵『風の向こうへ駆け抜けろ』(小学館文庫)が爽やかな読み心地。地方競馬でデビューを果たした18歳の芦原瑞穂だったが、まだ女性への偏見が残る世界で、前途は多難。しかも所属する厩舎は調教師も厩務員も馬も問題児ばかりだ。しかし一頭のダメ馬との出会いが、瑞穂や周囲の人々を変えていく。競馬を知らなくても楽しめる青春スポーツ小説で、続編『蒼のファンファーレ』(小学館)も刊行されている。

 馬とともに生きる人生を選んだ話といえば、コーマック・マッカーシー『すべての美しい馬』(黒原敏行訳、ハヤカワepi文庫)も。1949年、テキサスに住む16歳の少年が、牧場を失うことを機に愛馬と親友とともにメキシコへ向かう。やがて大牧場の調教師の仕事を得るのだが……。こちらも青春と冒険の美しい物語。『越境』『平原の町』(同)と並んで〈国境三部作〉として知られている。

新潮社 週刊新潮
2018年9月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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