『消された信仰』 広野真嗣著

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消された信仰

『消された信仰』

著者
広野 真嗣 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093886215
発売日
2018/05/30
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『消された信仰』 広野真嗣著

[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)

「変容」か「凍結保存」か

 6月末、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録された。その際、なぜ「かくれキリシタン」ではないのかと疑問をもった人は少なくないだろう。

 じつは2014年に長崎県が作成した文書には「伝統は、いわゆる<かくれキリシタン>によって今なお大切に守られています」とあった。だが、17年には「現在ではほぼ消滅している」と表現が“消されていた”。

 本書はその謎を解き明かすべく、舞台となる生月島(いきつきしま)への取材を行ったノンフィクションである。著者が興味をもったのが同島に伝わる「洗礼者ヨハネ」の聖画。着物でちょんまげ姿の男が描かれていた。現地へ赴くと、聖地らしい扱いも見受けられないことにも違和感を抱く。そこから生月島の信仰を掘り下げていく。

 島の信仰は独特だ。オラショという祈りはじつに40分にも及ぶ。それらは暗誦(あんしょう)、口伝されてきた。また、洗礼を施す「オジ役」、「御前様」という聖画は集落内で引き継がれる習わしだった。それらは禁教だった時期の慣習が根付いたものとされるが、さらに著者が取材を進めると、不思議な光景も目にする。御前様の横には神棚や仏壇があり、「神様はあからさまに“同居”」している様子でもあったからだ。

 生月島の信仰は「習合が進み、神仏とほとんど一体」という見方もある一方、口伝されてきたオラショは16世紀の布教時代の祈りそのままであることもわかってくる。そして、著者はある時点で衝撃的な事実を知る。もう同島では「お授け」=洗礼は行われていないというのだ。

 本書では、著者が抱く疑問ごとにその取材が進む構成になっており、読み進めると、戦後のカトリック教会との関係なども明かされていく。意味不明だったオラショの解読など、その謎解きは非常におもしろい。

 ただ、書き方として、この分野にそぐわない口語表現、抑制的とは言いがたい一人称表現がしばしば出てくるところは、やや残念だった。

 ◇ひろの・しんじ=1975年生まれ。ジャーナリスト。2017年に本作で小学館ノンフィクション大賞受賞。

 小学館 1500円

読売新聞
2018年9月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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