<東北の本棚>生きることの意味問う

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<東北の本棚>生きることの意味問う

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災による死者の大半は津波による犠牲者だった。福島県内でも事情は同じ。だが、宮城、岩手両県とは決定的に異なる。福島第1原発事故によって多くの住民が強制避難を命じられ、行方不明者の捜索さえできなかった。
 原発事故ばかり注目され、津波被害は世間に認知されない。県民は割り切れなさを感じていた。本書は南相馬市と福島県大熊町で被災した2人の男性を中心に、津波被害や原発事故の実態、行方不明の家族への思いなどを描く。
 南相馬市の農協職員上野敬幸(38)は長男、長女と両親を津波で亡くした。原発事故で一時避難したがすぐに戻り、青年団の仲間と共に行方不明者を捜索。1カ月で40人以上の遺体を見つける。間もなく自衛隊が入り3週間ほど活動したが、父親と長男は見つからなかった。浜の再生と復興を成し遂げようとの思いを込めて青年団を「復興浜団」と改称し、活動を続ける。
 大熊町の養豚業木村紀夫(46)は津波で妻と次女、父を失う。避難命令を受け、長女を岡山県の妻の実家に預けた後に地元に向かったが、町には入れなかった。3カ月たち一時帰宅が許されたものの滞在時間は2時間だけ。長女と長野県に移り、大工仕事をしながら大熊に通う。やがて上野らと出会い、手助けを受けて5年9カ月後、次女の遺骨を発見することができた。だが、上野は長男を見つけられなかった。
 東京電力の幹部社員や地元ラジオ局アナウンサー、被災地に派遣された静岡県の自治体職員ら、2人を取り巻く人々にも迫り、震災、原発事故後のさまざまな人間模様を描きだす。著者が言うように、上野や木村が過ごした時間は、捜索のための時間であるとともに、自分が生きることの意味や命とは何かを問い掛ける時間でもあったことを浮き彫りにしていく。
 著者は1984年生まれ、名古屋市出身のノンフィクションライター、カメラマン。
 文芸春秋03(3265)1211=1782円。

河北新報
2018年9月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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