ほしおさなえ新シリーズ刊行記念インタビュー 苦しみを受け入れることで前に進む話にしたい

インタビュー

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菓子屋横丁月光荘

『菓子屋横丁月光荘』

出版社
角川春樹事務所
ISBN
9784758441940
価格
704円(税込)

書籍情報:openBD

【特集 ほしおさなえの世界】著者インタビュー

[文] 青木千恵(フリーライター・書評家)

ほしおさなえ
ほしおさなえ

大ベストセラーとなった「活版印刷三日月堂」シリーズの著者による新シリーズ第一作『菓子屋横丁月光荘 歌う家』が、この八月、「三日月堂」シリーズの完結編と同月発売となりました。両シリーズとも、現在も情緒豊かな町並みが残る川越が舞台。自然と涙があふれ、心の拠りどころになるような温かい作品を紡ぎ出す著者の魅力に、インタビューで迫ります!

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――新シリーズを始めることになった経緯を教えてください。

ほしおさなえ(以下、ほしお) 「活版印刷三日月堂」シリーズ(ポプラ社)を読んだ角川春樹事務所の編集者から、同じく川越を舞台にした小説を依頼されたのが始まりでした。活版印刷が主題の「三日月堂」のスタート時、古いものと新しいものが混在する町を探して、川越を舞台に決めました。第一巻、第二巻と出たときに川越の方たちがすごく応援してくださって、もっと舞台を書き込んでいこうとディープに取材する直前ぐらいに依頼をいただいたんです。私としても、町としての奥行きに関心を深めていたので、川越を舞台に、「三日月堂」とは別の物語を作っていきたいと思いました。

――「月光荘」は築七十年の古民家です。家が重要なアイテムになっていますね。

ほしお 新しい物語でも、“活版印刷”のような核になるものがほしいと思いました。地元の方から古い建物の話も聞いていたので、建物がらみにしようと。修繕や改築をする主人公はどうだろうかと、壁塗り体験に行ったりもしました(笑)。古い建物では、代替わりしたり、別の人に譲渡されたり、貸し出されたり、住む人が代わっていくことがありますよね。そこで生まれるドラマを扱っていくことにしました。

――なぜ、「家の声が聞こえる」設定にしたのですか?

ほしお 今回は、身寄りなく知らない町に流れ着いてしまった人を、深く描きたい気持ちがありました。ごく普通の若者が「まれびと」としてやって来て、町に深く入り込んでいくにはどうすればいいか。何日も考え続けて「家の声を聞く」設定を思いつき、一点だけ、ファンタジックな要素を入れることにしました。ものから声が聞こえる設定で「ものだま探偵団」というシリーズを書いていますが、児童書なので、あんまり長い年月や難しいテーマは扱えないんですね。今回は家の声を聞く設定にして、人間のちょっと根深いところにつなげていきたいと考えました。

――主人公は、両親、祖母、祖父と身内を亡くして転々としますが、移り変わっていく感覚は描きたいことでしたか?

ほしお それもありました。「三日月堂」は父を亡くした経験から生まれているんですけれど、父が亡くなる前の半年間、それまで年に数回帰るくらいだった実家に、かなり頻繁に通ったんです。行くたびにいろんな思い出がよみがえって、子供の頃に遊んだ町がいつの間にか変わり、人もいなくなって、悲しい、寂しい、土地自体が生き物のような感じを覚えました。若い頃と違って、私自身がこう、永遠に日常が繰り返されるという感覚はもうなくなってきているんです。家を処分する話を書いてみたいとも思ったんですが、私小説的な話になってしまう。それで、まだ若いけれど家を奪われるような体験をした人が、川越に住み始めたのをきっかけに昔のことを追体験していく流れにしたいなと。

――川越の町を訪ねたからこそ、家のイメージが生まれたのでしょうか?

ほしお なくなったものを書きたいけど、なくなるばかりだと気が滅入ってしまう。川越という町は、江戸商人の遺した蔵造りをはじめ、昭和のレトロな建物など「小江戸」といわれる情緒が残っていますよね。それもほっこりするだけじゃなく、商人の町のたくましさも引き継がれている町なんです。商店でも十代以上続いているところが珍しくなく、三代目、四代目はまだまだ若造という感じで、「先祖おこし」のようにしてみんなで町をきちんと修復して暮らしているのがすごい。川越商人の矜持、活気みたいなものが、この物語には影響していると思います。

――「月光荘」に移り住んだ主人公は、隠れていた月に気づくみたいに、自分の気持ちと向き合います。人間ドラマは、書いていく中で生まれてくる感じなのでしょうか。

ほしお 「三日月堂」は、勇気がなくて踏み出せない人、喪失の悲しみを抱えた人が、印刷を通して少し前向きになる物語でした。それに対して「月光荘」は、恨みや憎しみなど、人に対するほどけない感情を持つ人が、苦しみを受け入れることで前に進む話にしたいと思っているんです。「三日月堂」のときよりもよじれのあるマイナス感が解き放たれる感じで。ほどけないものを抱えている人を見ると、その感じをほぐしたいな、物語で語りかけたいなと思うんです。気持ちが堂々巡りするのは、見たくない扉を見ない、何もないことにしているから、いつまで経っても出られないんですね。まずは主人公の守人にそのプロセスを通ってもらいたくて、第一話で主人公の話を書き、そこからスタートして、彼がいろんな人と関わっていきます。

――確かに、最近は「よじれ」が強くなっているというか、SNSで意見を言い合って、和解せずに時が流れていく感じです。

ほしお いろんな人の生の声が聞こえるようになって、「私もそう思っていた」と持論を強めていく傾向があると思います。「私だけじゃないんだ」と救われる人も、「ずっと我慢していたんだ、悔しい」と掘り下げる人も、どちらもあります。わだかまりからは逃れきれないかもしれないけれど、原因を明らかにしないと結び目がほぐれることもないですよね。

――守人は作中、「仙人みたいな人」と言われていて、どこか儚い印象があります。

ほしお 暗いほうに引きずられがちなんだけれど、「べんてんちゃん」のような子が近くにいることで、もうちょっと生きなきゃと思い直すようなタイプです。丹地陽子さんが本の表紙で守人をかっこよく描いてくださって、少しびっくりしたんです。もっと弱々しいイメージだったので(笑)。でも、ほんとは強いものを秘めているからこれでいいのかな、と。べんてんちゃんは、ぽわっとしたところがある女の子で、でも生きる力に満ちている。二巻では、守人の男の友達を登場させようと思っています。現実的な兄貴のような、同性の友達も必要だと思うので。地元住民の安藤さんも物語のキーパーソンで、安藤さんとべんてんちゃんが守人を川越の町につないでいく。彼らの伝手でいろんなところを訪ねていく感じを考えています。

――『活版印刷三日月堂 星たちの栞』の第二話に登場する喫茶店が描かれているというような、他作品とのリンクはこれからもありますか?

ほしお 「月光荘」は、丸窓のイメージが先にあって、そこから名づけました。「三日月堂」は八月刊の四巻目でシリーズ完結ですが、番外編をいくつか書くつもりです。舞台が同じ川越ですので、「桐一葉」のリンクは意図的で、二巻の最初の話では「三日月堂」の登場人物を出そうと思っています。「三日月堂」ではサブのサブのようなキャラクターなのですが、その人のその後が知りたいので登場させようと考えているんですね。そのように、リンクを少しずつ入れて、世界がゆるくつながっていく感じです。すべての話を同じトーンにすると面白くないから、二巻目にはまた別のタイプの話も入れていこうと思っています。商売っ気のある人物を出したりして、活気のある、生き物としての町を描けたら、と思います。

聞き手=青木千恵

角川春樹事務所 ランティエ
2018年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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