悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト パガニーニ伝 浦久俊彦著

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悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト

『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト』

著者
浦久 俊彦 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784106107757
発売日
2018/07/14
価格
821円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト パガニーニ伝 浦久俊彦著

[レビュアー] 竹中勇人(ヴァイオリニスト)

◆ブランド戦略にも超絶技巧

 クラシック音楽に馴染(なじ)みの無い方でも「ピアノの詩人」と呼ばれたショパンという名前はご存じだと思う。では、パガニーニはどうであろうか。一七八二年、北イタリアのジェノヴァで、ごく貧しい家に生まれた彼は、驚異的な超絶技巧と比類なき音色で、当時のヨーロッパの聴衆を熱狂させたヴァイオリニストである。

 作曲家でもあった彼の残した作品は、現代のヴァイオリニストにとって今もなお技術的に難曲でありながら魅力的な「歌」をもったものであり、重要なレパートリーである。ヴァイオリン協奏曲第二番の第三楽章は、リストによって編曲され、有名なピアノ曲「ラ・カンパネラ」として親しまれている。また彼の名前を冠した「パガニーニ国際コンクール」は、ヴァイオリン界の最高峰の一つである。

 十九世紀前半に活躍したパガニーニ自身の録音記録はもちろん無いが、本書による当時の記録は驚かされることばかりだ。

 彼の演奏会のチケットは高額であるにもかかわらず、上流階級の貴族だけでなく、下層階級を含めた多くの市民がこれを求めて会場につめかけた。終演後は、街全体がパガニーニの話題でもちきりだったという。ウィーンでの演奏会収入はベートーヴェンよりも桁ちがいに多く、ロンドンでは一年間で約八十億円稼いだというから、羨(うらや)ましいという思いを通り越して想像ができない。

 その他のエピソードもまさに波瀾万丈(はらんばんじょう)である。博打(ばくち)でスッて楽器を手放したり、女に溺れたりで、枚挙にいとまがない。また彼の形容詞だった「悪魔的」という言葉は、風貌と当時の社会事情から生み出した彼のブランディング戦略であることや、溺愛する息子のために病気をおして奔走することなど、彼の新しい一面を教えてくれる。

 当時の新聞記事には彼の素晴らしさは実際に聴かないと分からないと書いてあった。我々にはかなわないが、本邦初のこの伝記により、パガニーニを新発見・再発見することはできると思う。

 (新潮新書・821円)

 1961年生まれ。文筆家、文化芸術プロデューサー。著書『138億年の音楽史』など。

◆もう1冊 

浦久俊彦著『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』(新潮新書)

中日新聞 東京新聞
2018年9月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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