出生前診断で誤診、死亡――裁判を追い“選ぶ”ことの是非を問う

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選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子

『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』

著者
河合 香織 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163908670
発売日
2018/07/17
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

函館で起きた事件の裁判を追い“選ぶ”ことの是非を問う

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 妊娠の喜びのあと妊婦は不安にかられる。この子は五体満足に生まれてくるだろうか。それを払拭するために出生前診断を行う。問題が見つかれば中絶か出産かの決断をするが多くは中絶を選ぶ。だが医師が誤診をして障害がある子が生まれてきたら、母はどうするだろう。

 2011年、函館で実際に起こった事件だ。検査結果の見落としによってダウン症の子を出産し、3か月後に合併症によってその子を亡くした両親は、医師と医院を相手取り損害賠償請求の訴訟を起こした。この裁判では原告の母親に対する否定的な意見が相次ぎ、命を選別するのかという論争が繰り広げられた。

 著者はその母親と同じころ、妊娠中の子がダウン症などの疾患を持っている可能性を指摘され悩んでいた。検査はせず、どんな子でも産みたいと決めて実際に出産したものの、出産間近の心の揺れは大きかったという。この裁判は自分が見届けたいと取材が始まった。

 検査結果が正確に伝えられていれば、中絶が選択されていた可能性が高い。事実、母親は、最初は受け入れるのが難しかったようだ。だがその子が苦しんで死んだことをきちんと謝罪してほしいと慰謝料を請求する裁判を起こしたのだ。

 しかし裁判のなかで、現行の母体保護法では胎児条項が設けられておらず、胎児の異常での中絶は認められていないと知る。被告側の医師は子どもに対する慰謝料を拒んだ。最終的に支払われたもののそれは親に対する賠償金だった。

 出生前診断の誤診は過去にも例があり著者はその親子にも会いに行く。診断によって異常が見つかった妊娠中期の堕胎を担当する医師や看護師の話は胸が痛い。

 私は子どもができなかった。ほしいと思っていた時期でもやはり出生前診断は受けただろうし異常があれば堕胎していたと思う。だがもし同じ状況だったら、どうしただろう。答えは見つからない。

新潮社 週刊新潮
2018年9月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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