6年かけて驚異の“10刷” お値段7000円、異例の海外文学作〈ベストセラー街道をゆく!〉

レビュー

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2666

『2666』

著者
Bolaño, Roberto [著]/久野 量一 [訳]/内田 兆史 [訳]/野谷 文昭 [訳]/Bolano Roberto [著]/ボラーニョ ロベルト [著]
出版社
白水社
ISBN
9784560092613

書籍情報:openBD

圧巻のボリュームと値段でも信頼を積み上げ驚異の“10刷”

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

「海外文学のコアな読者は3000人」――業界内でまことしやかに囁かれ続けている定説だ。むろん正確な数字は知るよしもないが、「初版2000~2500部を基準にしている」(白水社編集部)という現状を考えると、かなりリアルな実感を伴う。

 そんな厳しい状況下でコツコツと増刷を重ね、発売から6年かけて10刷を達成したベストセラーがある。今回スポットを当てるのは現代ラテンアメリカ文学の鬼才ロベルト・ボラーニョの『2666』、2段組みで860ページにも及ぶ大著だ。

 本作は50歳で早逝したボラーニョの遺作。10以上の言語に翻訳され、英語版は2008年度の全米批評家協会賞を受賞している。とはいえ、圧巻のボリュームに加え、お値段は初版時で税抜6600円(現在は7000円)。いくら傑作の呼び声高くても、気軽にレジに持って行けるたぐいのものではない……はず。

「ところが同時代の海外文学を購入される最近のお客さんって、意外とためらいがない。1万円以上のお買い上げになることもしばしばなんです」と語るのは個人書店の店主。「値段以前に、お客さんの中でその作家とレーベルの組み合わせに対する信頼度が構築されている印象がある」のだという。

 最初にボラーニョ作品の邦訳『通話』が出たのは白水社の「エクス・リブリス」シリーズ。メジャー言語に偏らず独創的なタイプの話題作を数多く刊行し、2年連続で日本翻訳大賞受賞作を世に送り出すなど熱心なファンの多いレーベルだ。担当編集者はあくまで「“作品の力”ということに尽きます」と強調するが、続く『野生の探偵たち』を含め、ボラーニョの魅力が読者に認知されるようになったのは、目利きたちによる真摯で丁寧な本づくりが信頼を積み上げたからだろう。

 とくに『2666』は、複数の物語が重なり合い、読むたびに違った可能性がひらけてくる本。「再読のために手元に置いておきたがるから古本市場にも出回りにくい」(書店関係者)――健全な流通の姿がそこにある。

新潮社 週刊新潮
2018年9月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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