『ぼくの兄の場合』 ウーヴェ・ティム著/『戦時の音楽』 レベッカ・マカーイ著

レビュー

6
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ぼくの兄の場合

『ぼくの兄の場合』

著者
ウーヴェ・ティム [著]/松永 美穂 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784560090565
発売日
2018/07/14
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

戦時の音楽

『戦時の音楽』

著者
レベッカ・マカーイ [著]/藤井光 [訳]
出版社
新潮社
ISBN
9784105901486
発売日
2018/06/29
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ぼくの兄の場合』 ウーヴェ・ティム著/『戦時の音楽』 レベッカ・マカーイ著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

細やかな家族の〈歴史〉

 一九四三年、一九歳の兄が戦死する。兄はナチス・ドイツの武装親衛隊に所属していた。そして、ドイツ敗戦。武装親衛隊の残虐行為が暴かれる。兄は勇敢な兵士として死亡したのか、残虐行為に加担してはいなかったか。残された両親と姉弟の疑惑が、やがて兄の実像の追求をまるでタブーとしていく。もとより、兄の戦死当時三歳だった弟にはおぼろげでやさしげな記憶しかない。両親が亡くなり、姉が亡くなり、ひとり残された小説家となった弟が、日記や手紙を手がかりに兄について、家族について、その足跡をたどって語り始める。『ぼくの兄の場合』は、そこから見えてきたそんな戦争と家族の記憶をめぐる、いわば回想文学である。松永美穂訳。

 片や『戦時の音楽』は、第二次世界大戦とハンガリー動乱を経て、アメリカ合衆国に亡命した一家、女優・小説家の祖母をはじめ「奇妙に芸術家気質の一家」(著者)のもと、アメリカで生まれた娘はやがて自らも小説を書き始める。十七編を収録したその最初の短編集である本書に通奏低音のように音楽のように静かに流れるのは、家族の流転、戦争や国家やテロリズム、そしてこの時代の<生>と<死>。こちらはあくまで小説ではあるのだが、そんなさまざまな記憶が物語につむがれからみつく。藤井光訳。

 家族の、一族の、血族の、そして自分の記憶を掘り起こす。物語って語り残し、語り継ぐ。声高にではなくちいさな声でいい、けれども粘り強く静かに強靱(きょうじん)に。そこから見えてくる細やかな家族の<歴史>にこそ、私たちの<生>の深層があるのではないか。もちろんこれは戦争にテーマを限った話ではない。たとえば私たちなら東日本大震災をいかに語り伝えるか、我らの時代をどのように未来に語り残せるか。そして、記憶とはなにか。八月に読んだこの二冊に、そんなことを思わせられた。

 ◇Uwe Timm=1940年、独ハンブルク生まれ。

 白水社エクス・リブリス 2200円

 ◇Rebecca Makkai=1978年生まれ。米シカゴ近郊で育つ。

 新潮クレスト・ブックス 2000円

読売新聞
2018年9月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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