『大英帝国の歴史』上・下 ニーアル・ファーガソン著

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大英帝国の歴史 上

『大英帝国の歴史 上』

著者
ニーアル・ファーガソン [著]/山本 文史 [訳]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784120050879
発売日
2018/06/08
価格
3,132円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

大英帝国の歴史 下

『大英帝国の歴史 下』

著者
ニーアル・ファーガソン [著]/山本 文史 [訳]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784120050886
発売日
2018/06/08
価格
3,132円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『大英帝国の歴史』上・下 ニーアル・ファーガソン著

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

西欧の文化・制度を移植

 この本は大英帝国への郷愁からはじまる。著者が子ども時代に育ったケニアの熟れたマンゴーの香りと女性たちの歌声。コロニアルなバンガローの思い出。カナダの広大な農地に植民し、一から運命を切り開いていった、働き者の大叔母。

 罪なき子どもが感じ取ったのは大英帝国の素晴らしさだった。しかし、1980年代以降には、もはや帝国の栄光はネタにすることさえ憚(はばか)られるようになった。奴隷貿易、資源の搾取、プランテーションと身分制。こうした帝国の負の側面ばかりでなく、現在では、英国の繁栄のためには帝国などむしろ負担であったという経済学者の指摘が主流となった。帝国の防衛には有権者の金がつぎ込まれており、負担が重くのしかかった。自由貿易に任せていさえすればよかったのに、というドライな発想である。

 著者は、これらすべての指摘に首肯する。しかし、そのうえで、法の支配、信頼できる金融体制、透明性ある財政制度、清廉な官僚制度という西欧発のシステムが世界中に広まったことに目を向ける。

 グローバル化が進めばすべての制度が自然に備わると考えるのは間違いだ、という指摘である。貿易や資本と人の移動だけでは、文化や制度は移植されず、育たない。そう主張する著者は、大英帝国を築いたイギリス人の原動力と活動の軌跡を豊富なエピソードを交えてスケッチする。同時に、侵入された側の認識とイギリス人の誤解もつぶさに描き出す。

 この歴史物語が終わるころ見えてくるのは、イギリスに代わる帝国アメリカが自信を喪失し、世界をリードしようとする野望から後退したあとの不確実な世界である。取って代わろうとする中国発の文化や制度は、明確に異質な資本主義であり政治制度だからだ。

 本書の原著が2003年に出版されたことを思うとき、その指摘の的確さに身震いを覚えることだろう。山本文史訳。

 ◇Niall Ferguson=1964年、英国生まれ。歴史家。スタンフォード大フーヴァー研究所シニアフェロー。

 中央公論新社 各2900円

読売新聞
2018年9月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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