『信長の原理』 垣根涼介著

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

信長の原理

『信長の原理』

著者
垣根 涼介 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041028384
発売日
2018/08/31
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『信長の原理』 垣根涼介著

[レビュアー] 鈴木幸一(インターネットイニシアティブ会長CEO)

集団動かす独自の論理

 「少年は蟻(あり)を見ていた。暑い夏の午後、しばしば飽くこともなく足元の蟻の行列を見続けていた」。冒頭の一節である。織田信長はいかにして武田信玄、上杉謙信らをさし置いて、上洛を果たすほどになったのか。それは少年期から繰り返し蟻の行列を凝視することで得た、集団を動かす独自の論理であり、それこそが信長を信長たらしめたとするのが本歴史小説の眼目である。

 木下藤吉郎を前に、1300匹もの蟻を集めさせ、餌を撒(ま)き、蟻が巣穴に運ぶ行動の周到な実験を見せる。神仏など微塵(みじん)も入る余地がない激烈で苛烈な精神を持った信長だったが、蟻の行列を通して、「懸命な二割、漫然と働く六割、やる気のない二割」という集団の動かし難い行動原理にいたる。戦さを目にするたびに、その確信を深めていく。鍛え上げたはずの直属軍である馬廻衆(うままわりしゅう)を戦さで率いてもその2・6・2の比率は変わらなかった。優秀な人材を集めたつもりでも、2割しか役に立たないのだ。この「論理」に従い、信長は家臣の粛清や追放を繰り返すことによって、天下統一という野望を着実に前に進めていったのである。

 その信長から、顔を合わせるなり、文武両道に卓越した人物と認められ、即決の形で、異例の厚遇を受けたのが明智光秀である。本書では信長による盟友徳川家康の謀殺計画が描かれているのだが、計画を漏らしたのも光秀だけである。にもかかわらず、信長は光秀の侍大将である斎藤利三の切腹を命じた。信長の論理を知る光秀は、本能寺の謀反という行動を決心するまで、自らを追い込んでいくことになる。

 「余は、自ら余の死を招いたな」。本能寺で自らの死を悟った信長の言葉で600ページ近い本書は終わる。「信長の論理」という言葉の繰り返しには少々辟易(へきえき)するのだが、知っているはずの信長の生涯をたどりながらも、独自の視角を交え、一気に読み続けさせる筆力が、なによりも魅力である。

 ◇かきね・りょうすけ=1966年長崎県生まれ。作家。著書に『ワイルド・ソウル』『君たちに明日はない』など。

 KADOKAWA 1800円

読売新聞
2018年9月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加