『フランス人の第一次世界大戦 戦時下の手紙は語る』 大橋尚泰著

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フランス人の第一次世界大戦

『フランス人の第一次世界大戦』

著者
大橋 尚泰 [著]
出版社
えにし書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784908073557
発売日
2018/06/25
価格
4,320円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『フランス人の第一次世界大戦 戦時下の手紙は語る』 大橋尚泰著

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

戦争の現実語る郵便物

 パリのがらくた市やセーヌ河沿いのブキニスト(露天の古本屋)を冷やかしていると、古い絵はがきをたくさん売っていて、なにやら熱心に探しているマニアがいたりする。フランスでは、「印刷物」として「法定納本」の対象となっているし、収集の道も奥深いものらしい。本書は、彼(か)の地の「消印愛好研究会」のメンバーでもある著者による、そのすばらしい成果。出征兵士が家族・友人と交わした絵はがき、さらに「郵便書簡」や電報等のコレクションを解読・翻訳し、詳細な注解を付けて配置することで、第一次世界大戦の様相を描き出す試み、総数は二百点余り、現物の写真が添えられている。

 第一次大戦といえば塹壕(ざんごう)戦だが、ある軍曹は「戦争とは、できるだけ深く穴を地面に掘ることなのです。まったく愚の骨頂です。(中略)爆弾、手りゅう弾、大鍋〔巨大な砲弾の俗称〕。これで見事なコンサートのできあがり」と両親に書き送る。薬莢(やっきょう)を溶接して作ったペン軸を送るよと細君に宛てた、白樺(しらかば)の皮をはいだ「急場しのぎの」はがきもある。白樺郵便がかなり流行していたらしいから、レア物ではないのかもしれない。一九一六年一月二九日、パリは飛行船ツェッペリン号の爆撃を受ける。すると早速、爆弾であいた穴の絵はがきが発売されて、近所の住人が「家から50mのところに最初に落ちたのがこの爆弾です」と田舎の親戚に書き送る。「カルト・フォト」といって、写真を現像して、戦場での無事な姿を絵はがきとして送ることもよく見られたらしい。

 軍事郵便は原則として無料で、膨大な私信が行き交ったというが、兵士に送られた手紙類はあまり残らなかった。私物を背嚢(はいのう)に入れて移動するため、溜(た)まった手紙をやむをえず捨てる場合も多いし、尻拭きにも使われてしまったという。それでも、紙媒体は残る。すべてメールで済ませるわが身を反省し、「郵便書簡」を買ってきた。価格は62円也(なり)。でも、だれに、なにを書くのか、それが問題だ。

 ◇おおはし・なおやす=1967年生まれ。フランス語翻訳者。著書に『ミニマムで学ぶフランス語のことわざ』。

 えにし書房 4000円

読売新聞
2018年9月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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