<東北の本棚>奥州王最後の駆け引き

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政宗の遺言

『政宗の遺言』

著者
岩井三四二 [著]
出版社
エイチアンドアイ
ISBN
9784908110085
発売日
2018/07/31
価格
1,980円(税込)

<東北の本棚>奥州王最後の駆け引き

[レビュアー] 河北新報

 奥州王・伊達政宗は最後まで天下の覇権を狙ったのか、あるいは徳川幕府は仙台藩を本気でつぶそうとしたのか、駆け引きは死の床まで続く。「政宗の遺言」をテーマに展開する歴史小説。戦国時代を駆け抜けた独眼竜政宗が、死に臨んで最後に望んだものとは何だったのだろうか。
 物語は、死期の迫る政宗を前にして小姓たちのひそひそ話、昔語りから始まる。小姓と言っても実際は陰で動く間諜(かんちょう)、今流に言えばスパイだ。
 若き日の政宗が会津の蘆名(あしな)、常陸の佐竹連合軍に挑んだのが人取橋の合戦だ。間諜が蘆名の陣中に忍び込んで「藩境の将が、伊達の兵を領内に引き入れる相談をしている」などと流言を広めた。2日目にして蘆名、佐竹軍は兵を引く。合戦に勝利し、政宗は奥州王の第一を踏み出す。
 磐梯山麓で決戦となったのが摺上原の合戦だが、ここでも間諜が事前に相手陣営に飛び込んでかく乱、蘆名の将、猪苗代氏を伊達側に取り込んだ。戦いは伊達軍の大勝利、南奥羽の覇権を握る。政宗、時に21歳であった。
 小田原参陣、大崎・葛西一揆と天下人豊臣秀吉の前で苦境に立たされる政宗だが、知略と謀略で切り抜ける。徳川の世になるとメキシコとの通商を求め大胆にもローマに使節を派遣した。交渉が首尾よくいかなかった場合は「イスパニアの軍勢を引き込んで幕府に謀反を?」などと評される。
 臨終の瞬間まで、間諜が仙台藩邸に忍び込む。なんと藩邸には「二重スパイ」もいた。政宗謀反の証拠はどこに…。彼らは果たして奥州王の野望をしたためた?遺書を手に入れることができたのだろうか。
 著者は1958年岐阜県生まれ。民間会社勤務を経て作家活動に入る。「村を助くは誰ぞ」で歴史文学賞。
 エイチアンドアイ03(3255)5291=1944円。

河北新報
2018年9月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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