『出版禁止 死刑囚の歌』
書籍情報:openBD
動機の陰にドラマあり。徹夜本的な面白さ
[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)
雑誌に寄稿されたいくつかのルポを再編集し、鬼畜と呼ばれた死刑囚・望月辰郎の犯行動機に迫っていく。著者お得意のルポルタージュ風のフィクションだ。まず、二十二年前に起きた「柏市・姉弟誘拐殺人事件」が紹介される。被害者となったのは六歳の小椋須美奈ちゃんと四歳の亘くん姉弟。事件発生から十年以上が経ち、すでに死刑も執行されていたが、ルポライターの橋本は、事件現場に出向き、公判記録や事件報道に当たり、加害者・望月の縁者を訪ねて、事件のあらましと望月の半生、被害者一家の当時の様子などを調べ上げる。愛娘の自死から望月の転落が始まったことや社会に深い恨みを抱いていたことはつかんだが、事件当時ホームレスだった望月と小椋家との接点はなかった。にもかかわらず、なぜ自分とは無関係の幼い姉弟を惨殺したのか。
興味深いことに、その望月は、収監されたのち、獄中歌人となり、犯行の様子を描写したような歌を遺していた。その歌にはある謎が仕掛けられていて、それを解題することで望月の残忍性と動機の謎がさらに色濃く浮かび上がる。
ここまででも十分推理ゴコロをくすぐるが、本作に本当に驚かされるのは、「向島・一家殺傷事件」という別の事件ルポからだ。被害者家族三人の口中に、白い紙が押し込まれるという奇妙な細工をされた凶悪事件。その時死亡した五十代の夫婦が実は柏市のあの事件被害者の両親だった。そこで一見何の関わりもなさそうな二つの事件が結びつく。薄紙を剥ぐように見えてくる真相は、現代社会の身近な問題を網羅している。それがどんな形でつながり、どんな結末を示してくれるのか。重苦しい現実を書きながら、一筋の光を感じさせるエンディングに拍手を送りたい。