46年ぶりの“受賞作なし”経て登場  ジャンル横断ミステリ作

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到達不能極

『到達不能極』

著者
斉藤 詠一 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065130605
発売日
2018/09/20
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

極寒の南極が舞台のクロスジャンルミステリー

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 昨年四六年ぶりの受賞作なしに終わり、話題を呼んだ江戸川乱歩賞。今年は本卦還りしてがちがちの本格謎解きものが取ったりしないだろうかと期待した向きもあるかも。

 結果、受賞作はちゃんと出ました。でもこのタイトル、内容がちょっとわかりにくいかも。

 出だしは二〇一八年二月、日本人を始め世界各国からのツアー客を乗せた旅客機がオーストラリアから南極へ向けて旅立つところから始まる。日本の旅行代理店のツアコン・望月拓海は、ある老人客が参加したため同行せざるを得なくなったのだが、特異な行先に興味を抱いていた。

 だが巨大なロス棚氷を過ぎた辺りで突如一切の通信が途絶え、エンジンも停止、旅客機は不時着を余儀なくされる。幸い着陸地点にはアメリカの観測基地跡があり、大事には至らなかったが、機内で知り合った謎のアメリカ人ベイカーとともに基地内に入った拓海は、そこでミイラ化した男の死体を発見する。

 物語はこの現代部と並行して、日本南極地域観測隊の面々が着陸機の救助に向う章と、日本帝国海軍航空隊の星野信之二飛曹が先輩たちとともにドイツから来た博士と娘のロッテをマラッカ海峡のペナン島から遠隔地へ運ぶ作戦につく一九四五年一月の章が順繰りに展開していく。

 その遠隔地とは、南極。到達不能極とは、南極の中で海から一番遠い地点を指す言葉なのだ。現代の拓海たち一行もやがてそこを目指すことになるが、マイナス四〇℃があたりまえの極寒の中で徐々に今昔をつなぐ秘密が明かされていくくだりはスリリングのひと言だ。

 そう、本書は佐々木譲『ベルリン飛行指令』や福井晴敏『終戦のローレライ』等の名作を髣髴させる戦時冒険小説であり、科学ミステリーである。謎解き趣向もないではないが、ポイントはやはりクロスジャンルの妙。今後の乱歩賞の行方を占う意味でも本作の受賞は興味深い。

新潮社 週刊新潮
2018年10月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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