“鍵のかかった部屋”3冊 アンソロジーから三島まで

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「密室」をモチーフに5人が競演のアンソロジー

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 5人の作家による密室をモチーフにしたアンソロジー『鍵のかかった部屋 5つの密室』。書き手のそれぞれの個性が堪能できる一冊だ。似鳥鶏「このトリックの問題点」は、ミステリ研究会会長の部屋で密室盗難事件が起き、犯人の視点から、仲間たちが真相解明に挑む過程がユーモラスに展開。友井羊「大叔母のこと」は主人公が亡くなった大叔母の家の開かずの間の鍵を探すうち、故人の深い思いを知ることになる。ミステリ作家ではない彩瀬まるも参加していて、「神秘の彼女」では学生寮でのオカルティックな現象と学生の奇妙な恋模様がコミカルなタッチで描かれる。芦沢央「薄着の女」はホテルで密室殺人が発生、トリックの解明に挑む警部が犯人をじわじわと追い込む。島田荘司「世界にただひとりのサンタクロース」は実在する京都・錦天満宮の建物に鳥居の左右が食い込んだ場所で、過去に起きた奇妙な密室殺人の謎を学生の御手洗潔が解明(長篇小説『鳥居の密室』[新潮社]の一部として書かれたもの)。

 ところで、このタイトルから他の作品を思い浮かべる読者も多いのではないか。貴志祐介『鍵のかかった部屋』(角川文庫)は防犯探偵・榎本シリーズ第3弾の短篇集で、表題作では甥が自室で練炭自殺したと思われる現場に居合わせた男が、他殺を疑って弁護士の青砥純子と防犯コンサルタントの榎本径に相談を持ち掛ける。いつもながら大仕掛けなトリックで唸らせる。

 とくればポール・オースターの『鍵のかかった部屋』(柴田元幸訳、白水Uブックス。親友だった男の失踪を知った時から主人公の人生が変容する内容。実際鍵のかかった部屋も出てくるが、抽象的に使われるタイトルの意味が深い)で締めくくりたいが、文庫から選ぶなら三島由紀夫の短篇集『鍵のかかる部屋』(新潮文庫)を。表題作は何事にも無関心なエリート青年が、逢瀬を重ねていた人妻の死後、彼女の幼い娘に対しサディスティックな妄想を抱く。戦後混乱期を背景に描かれる本作も、“鍵のかかった部屋”が抽象的な意味合いをおびて噛み応えあり。

新潮社 週刊新潮
2018年10月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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