仕事を効率化するための「社内政治力」の利用法とは?

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社内政治力

『社内政治力』

著者
芦屋広太 [著]
出版社
フォレスト出版
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784866800028
発売日
2018/09/22
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

仕事を効率化するための「社内政治力」の利用法とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

社内政治力』(芦屋広太著、フォレスト出版)というタイトルについて説明するにあたり、著者は「働き方改革」「社内政治」とを並列させています。

両者はいわば新と旧。正反対の属性のようにも思えますが、筋は通っているというのです。

「働き方改革」とは、これまでの働き方を新しい働き方に変えようという考え方で、労働時間ではなく、成果主義で評価する体系に変え、より少ない時間で付加価値の高い仕事をするように労働者の仕事の仕方を変えることです。

そのためには無駄なものを排除し、効率的な仕事をすることが必要です。そして、生み出された時間を使って付加価値の高い仕事をする。このような能力、スキルを身につける必要があります。その能力、スキルのうち、最も重要なのが「社内政治力」です。(「まえがき ストレスなく働くための社内政治の研究」より)

社内政治という言葉を聞き、「自分には関係ない」「腹黒い人が持っている力」「興味があるけど難しい」というように感じる人もいらっしゃるはず。著者も入社10年目くらいまではそう思っていたそうですが、50歳を越え、部長として部下を持つ現在では、社内政治はとても重要なことであると考えているのだといいます。

社内においては、自然に組織間の利害関係が発生するものであるため、仕事が非効率的になってしまうもの。そんななかで著者は、「利害関係が発生しないように最初から利害調整しておけばいいのではないか」と考え、仕事のやり方を研究し、実践してきたというのです。

すると次第に仕事の無駄がなくなり、効率的に仕事ができるようになったのだとか。つまり、この能力、スキル体系を社内政治力と定義し、部下や社外の人に教えているというのです。

ちなみに社内政治力は、次の6つの力によって構成されているのだといいます。

(1)社内調整力:関係部門に反対されず、協力してもらえる力

(2)部下掌握力:部下が自分の思うように動く力

(3)上司懐柔力:上司との関係を良好に保ち、支援してもらえる力

(4)社内人脈力:社内に敵を少なくし(味方を多くし)、支援してもらえる力

(5)権力操り力:社内・社外権力者との関係を強くし、話を通すことができる力

(6)社外人脈力:社外での活動力、社外人脈を持つことで、社内発言力を強める力

(「まえがき ストレスなく働くための社内政治の研究」より)

それらについて説明している本書のなかから、「(4)社内人脈力」に焦点を当てた第4章「情報が勝手に集まる社内ネットワークのつくり方」に注目したいと思います。

ダーク・マネジメントと数の論理

仕事を効率的に進めていくためには、社内、社外に協力者を持つことが必要。特に社内の協力者=味方を持つことができれば、社内調整をスムーズに行うことが可能に。

また、自分や自部門だけではできないことを他の部門の人にやってもらう場合にも有効だといいます。また社内の味方は、仕事を効率的に進めるためには欠かすことのできない「社内の情報」を入手する際にも大きな力になってくれるもの。

つまり、社内に味方を多く持つことで仕事力は確実に向上するわけです。が、それだけにとどまらず、それは「ダーク・マネジメント」の源泉にもなるのだと著者は説明しています。

ダーク・マネジメントとは、「同盟作戦(多数派工作)」「諜報作戦(情報を使っての誘導)」「囲み攻め(会議において数で押す)」「兵糧攻め(相手のリソース供給停止)」「水攻め(権力者から高い圧力を加える)」の5つで、これらすべてにおいて味方が必要だというのです。

味方がいなければ「同盟作戦」や「囲み攻め」はできず、「諜報作戦」を使うことも不可能。社内の味方を通じてさまざまなルートで情報を流すことによってこそ、相手の行動誘導が可能になるわけです。

また会社においては、自分や自部門だけで仕事はできず、他部門の協力を必要とするもの。その「他部門協力」を促進、制限する「兵糧攻め(相手のリソース供給停止)」には、該当部門の味方の存在が不可欠。

当然ながら「水攻め(権力者から高い圧力を加える)」では、味方に権力者がいなければ実施は困難です。

このように、社内で強い政治力を発揮するダーク・マネジメントの獲得には、多くの部門に強い権力、高い能力を持つ味方をつくる必要があるということです。(132ページより)

避けるべきは派閥のなかのゆでガエル

社内に味方をつくる手っ取り早い方法としてすぐ思いつくのは、時の権力者であるボスの「派閥」に入ること。しかし、それはやめるべきだと著者は言います。

権力者派閥に入ると自分の力ではなく、権力者の力で仕事が進んだり、昇進、昇格をすることがあるもの。それに慣れると楽ですから、自分で努力して仕事を工夫したり、仲間をつくっていくことが億劫になっていくわけです。そしてその結果、能力が頭打ちになっていくでしょう。

しかし、ボスの権力が強いうちはいいものの、なんらかの理由で引退したり、失脚したりすると、派閥の人間は権力の傘を失い、厳しい競争世界に放り出されることになります。

そんなとき、日ごろから自分の能力を磨き、他の社内人脈をつくっていれば問題はないでしょうが、強い権力のボスの下で努力を怠ってきた人間は、ボスの衰退とともに落ち目になっていくものです。

つまり、そうなりたくないならば、権力者の傘に守られた派閥に入るのではなく、自分の能力を磨き、政治力を高めるために味方を増やしていくことが得策だということです。(133ページより)

味方にすべき人物の重要度とその順

味方は多ければ多いほどいいものですが、すべての人を味方にすることは不可能。生理的に好きになれない、高圧的だからつきあいたくない、そもそも面識がないなど、さまざまな理由があるからです。

また、味方をつくるには人間関係を構築する必要もあるため、一定の時間もかかることになります。そこで必要なのは、味方をつくるステップを考え、効果的に進めていくこと。

味方をつくるステップ

ステップ1:自分の仕事に必要な他部門の同僚、先輩、上長など

ステップ2:会社の中での主要な部門(経営企画、商品企画、経理部門など)の同僚、先輩、上長など

ステップ3:社内や社外情報を多く持っている人(社内や社外の付き合いが多く情報が集まる人)

ステップ4:社内人脈が多い人(社内調整経験が多く、各部門に味方が多い人)

ステップ5:経営層またはそれに近い強い権力を持つ人(役員クラス、役員候補の部長クラスなど)

(135ページより)

これは自分の仕事に影響を与える順だそう。自分の仕事に影響を与える人を味方にすると仕事が進むため、この順番で味方をつくっていくと、「味方効果」が出やすいというのです。

ステップ1は日常的に仕事で協力を得る必要がある部門であるため、いち早く味方につけるべき。同期入社、学校の先輩、過去に同じ職場だった同僚、上長、先輩、後輩など(同期、同窓、同部門)がいれば、その人をキーにして味方を増やしていくのがいいそうです。

そんな人がいない場合は、積極的に懇談会や勉強会、親睦行事などを行い、コミュニケーションをとり、人間関係を深くしていくことが大切。

ステップ2の主要部門は、社内調整が必要となることが多いので、これらの人を味方にしておくと仕事が効率的に進むもの。ただし、普段からあまりつきあいがない部門であれば、人間関係が薄い可能性も。

そんな場合は、同期、同窓、先輩、上長、過去にどう部門だった人などがいれば、その人を足がかりにして人間関係を深めていくのが効果的。いない場合は、すでに自分が持つ社内人脈のなかから人を見つけ、それを足がかりに。

ステップ3~5については、普段一緒に仕事をするなかにいる場合は、コミュニケーションを密にする工夫をして人間関係を深めることが大事。そのような機会がない場合は、すでにある人脈の中から手探りをすることになります。

しかしステップ3~5の人は実力者なので、ある程度の基盤を築いているはず。裏を返せば味方を増やすことへの緊急性がさほど高いわけではないため、彼らを味方にするのは難しいということにもなるといいます。

そこで、このような人たちには、情報などの価値を提供し、その見返りに動いてもらうようなことが必要。すでに社内の情報、人脈が多い可能性が高いため、社外の価値ある情報や社外人脈を使うことが有効だそうです。(135ページより)

社内のパワーバランスとキーパーソンの見極め方

味方をつくる際には、社内のパワーバランスを見極めることが重要。たとえば権力者の派閥が複数存在し、それらが敵対しているような状況においては、弱い派閥の人を味方にするよりも、強い派閥に属する人を味方にするほうが社内政治面では有利だということ。

とはいえ当然ながら、常に強い派閥の人を探して味方にするような行為をしていたのでは、「社内の風見鶏で権力をあてにしている人物」というレッテルを貼られかねません。車内のパワーバランスが重要だといっても、つかず離れず、必要に応じて同盟関係を維持することが得策であるわけです。

パワーバランスを見極めるために有効なのは、人事発令。どんな人物が車内の主要部門の重要ポストに配属されるのか、会社横断の特別プロジェクトのリーダーに誰が抜擢されるのかなどを見て、それらキーパーソンの交友関係、派閥、車内人脈を調査すると、社内のパワーバランスを知ることができるということ。

ただし、主要な部門の重要ポストにいる人物や会社にとって重要なプロジェクトのリーダーになる人だけがキーパーソンだとは限りません。そこで著者は、なかなか目につきにくい情報源を紹介しています。

社内には役員や、部長、課長、プロジェクトリーダーといった管理職、リーダー以外にも社内の情報に精通し、意外な社内人脈を持つ人たちがいます、それは、勤続年数が長い庶務担当社員、役員秘書、社有車の専属ドライバー、役員と同期入社の男性(定年間際のおじさん社員)、女性社員(古い言葉でお局様)などです。

こういう人たちは、一般の社員が知らない社長、役員、有力部長など権力者の悩み、泣き所、過去の失態、家庭の問題、好きなこと、苦手なことを知り尽くしており、権力がある役員、部長などと深い人間関係があることが多いものです。(139ページより)

よって、これらの人を味方にしておくと、社内政治面ではとても有利になるというのです。(138ページより)

著者は、金融機関の情報技術部門と販売企画部門を兼務する部長職を務める人物。本書は、そのような実績に裏づけられたものであるわけです。

メインターゲットとして想定しているのは、管理職やリーダーになっても仕事がうまく進まずに困っている人、あるいは今後さらに上の役所を狙うための社内政治を生びたい人。またその一方、新人や入社2~3年目の人でも理解できるように書かれているといいます。

つまりは広範な層のニーズに対応しているわけで、円滑に仕事を進めたいと願うビジネスパーソン必携の1冊と言えそうです。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年10月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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