『ワークデザイン 行動経済学でジェンダー格差を克服する』 イリス・ボネット著

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WORK DESIGN(ワークデザイン)

『WORK DESIGN(ワークデザイン)』

著者
イリス・ボネット [著]/池村 千秋 [訳]/大竹 文雄 [解説]
出版社
NTT出版
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784757123595
発売日
2018/07/02

書籍情報:版元ドットコム

『ワークデザイン 行動経済学でジェンダー格差を克服する』 イリス・ボネット著

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

男女平等実現に向けて

 女性の多くは知っているはずだ。大勢の聴衆を前にしたときの気が引けるあの感じ、自分がへりくだらなければと感じる「圧」。そうした謙虚さのせいで、多くの女性はリーダーシップを身に着けられないと思われてきた。しかし、本書が示すのは、女性の振る舞い方ではなくて、受け手の側のバイアス(偏り)の問題だ。

 オーケストラの楽団員選考では、かつて、女性が受かる率はとても低かったという。しかし、演奏家と審査員の間にカーテンを導入したところ、女性が選ばれる率が飛躍的に高まった。男性の方が優秀であるという無自覚な認識バイアスが判断に影響を及ぼしていたのだ。

 今日、先進国では多くの課題が「認知」されている。しかし、人びとの行動を変えるには問題の自覚だけでは足りない。カーテンのように、行動を変えやすくする「デザイン」が必要になってくるのだ。

 女性が消極的に見られがちなのは、社会が彼女たちを「サブ」として位置付けてきたからだ。女性には、競争を好まない、ハイリスクを好まない、あてずっぽうに推測することを好まない、譲りがちであるといった傾向があるとされる。もし女性に社会で活躍してほしければ、良い人材を見出(みいだ)し、適切に評価できるような採用「デザイン」が必要となる。

 さらに、ロールモデルも重要だ。学生が集う部屋にかかっている肖像画がビル・クリントンではなくヒラリー・クリントンだと、女子学生のスピーチはうまくなり、自己評価も高くなったという。そんなばかな、と思われるかもしれないが、ある実験によって発見された知見だ。

 平等の実現のために本書から学ぶことは実に多い。この本の内容は、女性やマイノリティーに限らず、娘を育てる父親、会社の生産性を上げたい幹部、職場環境を良くしたい労働者など、みんなに関係がある。私たちの社会をよくするための科学的知見がそこには詰まっている。池村千秋訳。

 ◇Iris Bohnet=スイス生まれの行動経済学者。米ハーバード大教授。同大の「女性と公共政策プログラム」所長。

 NTT出版 2700円

読売新聞
2018年9月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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