『虚偽自白を読み解く』
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虚偽自白にみえる「語れなさ」の刻印
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
冤罪をテーマにしたこわい新書を読んだことがある。今村核『冤罪と裁判』だ。この本に出てくる元刑事は、相手が誰であっても、この人を犯人に仕立てようと思えば思いのままに殺人を自供させることができると語る。尋問のプロは、強引に自白を引き出すテクニックをもっている。
やっていない人が自供するからくり。今回はまた違う角度から、いい解説が出た。浜田寿美男『虚偽自白を読み解く』。調書を読み込み、被疑者が犯行の細部を知らないために語れなかった、その「語れなさ」の刻印を見出していく。
いわゆる誘導尋問が行われるのは確かだが、供述のつじつまを合わせるために証拠品などをすべて被疑者に示すわけにもいかない。「正解」がなかなか出ず、被疑者が懸命に想像して新しい案を出す、ということさえあるのだ。
法心理学者である著者は、ここに普遍的な人間心理を読み取る。「お前が犯人だ」という決めつけから逃れられないとき、無実の人ほど無力感にさいなまれる(真犯人は自分がウソを言っているとわかっているため、そこまで絶望しない)。人はその無力感に耐えられず、絶対的な孤立からなんとか脱しようと、犯人を演じ始めてしまう。暴力や拷問だけが偽の自白をつくるわけではないのだ。
孤立に耐えきれない弱さ、助けが来ないと絶望する弱さなんて、誰にでもある。その弱さを前提にして自白を評価するしくみが必要なのかもしれない。