アナウンサーが教える、状況に応じた伝え方のコツ

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アナウンサーが教える、状況に応じた伝え方のコツ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

フリーアナウンサーである『言葉の温度 話し方のプロが大切にしているたった1つのこと』(馬場典子著、あさ出版)の著者は、本書の冒頭において「言葉には“温度”があります」と主張しています。

“言葉の温度”は話し手の“心そのもの”。温もりのある言葉が相手の心に寄り添うように、熱い言葉が相手の心に火をつけるように、こちらの心が相手に届き、言葉が相手に伝わるというのです。

一方、冷たい言葉は相手の胸に突き刺さってしまうものでもあります。敵意や悪意がある場合だけでなく、本人に自覚がなかったとしても、本音や無関心は温度に表れ、相手に伝わってしまうということ。

そればかりか、思いがあっても、感情が表に出にくかったり、うまく言葉にできなかったりすると、誤解されてしまうこともあり得ます。

温度は心の表れ。のはずですが、心だけでは、相手に届くときには冷めてしまって、きちんと伝わらない……なんてこともあります。

言葉の温度は、心を素(もと)にしながら、声のトーンや大きさ・話し方や聞き方・言葉遣い・ニュアンス・間・表情など、コミュニケーションの“総合力”なのです。

(「はじめに」より)

しかし著者のようなアナウンサーは、テレビを通して伝えるため、テキスト以上に温度が伝わりにくいものでもあるそうです。

とはいえ、それでも伝えるのが仕事。つまり裏を返せば、アナウンサーの話し方・伝え方は、保温効果の高いコミュニケーション方法だと言えるはずだということです。

つまり、アナウンサーとしての立場から「伝わるヒント」をまとめた本書も、そのような考え方に基づいて書かれているわけです。きょうはPart 7「シチュエーション別 伝え方のコツ」から、いくつかのポイントを抜き出してみたいと思います。

初対面の印象をよくしたいとき

著者はよく、「印象をよくしたいときは、印象をよくしたいと考えないことがいちばん」だと、禅問答のようなことを考えているのだそうです。

なぜなら、自分の印象を気にするより、相手が楽しんでいるかどうかに力を注いだほうが結果がついてくるものだから。いいかえれば、人と人との交流がベースになるということです。

ただし、ポイントはいくつかあるそうで、ここではそれらを紹介しています。

(1)相手の話をちゃんと聞く(そこから話が膨らみます)。

(2)相手の目を適宜見て話す(じっと見つめる必要はありません)。

(3)自然体を心がける(初対面はぎこちなくて当たり前。無理しなくて大丈夫)。

(4)プライバシーに踏み込まない(不躾にならないための礼儀です)。

(5)口角を上げる(相手が話しかけやすく、緊張しにくくなります)。

(6)もしふと目が合ったときは、微笑む(実は目を逸らしたほうが気まずい)。

(196ページより)

そしてもうひとつ、ファッションも重要なポイントだといいます。たとえばアナウンサーは、ニュース、バラエティ、スポーツなど、番組によって服装を変えているもの。

情報番組ではファッションも情報のひとつになるので、放送している時間帯や季節感なども考慮することに。

一方、ニュースでは、服装が伝える情報を邪魔しないように、ブラブラと動くイヤリングなせず、お辞儀をする必要があるときには前髪が目や顔にかからないように気をつけるのだそうです。

そしてスポーツ現場では、パンツスタイルにローヒール。食べるロケのときには髪をまとめ、食材を触るときには爪の手入れをしておくといった具合です。

これは、ファッションは自己表現の手段というだけではなく、コミュニケーションツールのひとつでもあるという考え方に根ざしたもの。そして、著者がなによりも大切にしているのは“清潔感”だといいます。(196ページより)

叱るとき

ここで著者は、お医者さんが病気について説明する際に心がけているという“PNP話法”を紹介しています。

ポジティブ

なことから入り(相手の緊張を和らげる心の準備をさせ)、 ネガティブなことを伝え(病状について説明し)、 ポジティブ

で終わる(具体的な治療について説明し元気づける)

(199ページより)

この話法は、相手がショックを受けるかもしれないときや、マイナスのことを伝えるときなど全般に効果的。そして著者はこれを、PNPならぬPNNPへとアレンジしています。

(1)労う(Positive)

いきなり叱りつけるのではなく、まずは日ごろの労いをする。感謝を伝えたり、理解を示したり、なにか気になることがある場合は「体調は大丈夫?」「なにか悩み事がるの?」などと声かけをすることもいいそうです。

また日ごろから、「最近どう_」というようにラフな声がけをしておくことも重要。

(2)訊ねる(Neutral)

この「ニュートラル」が、著者独自のアレンジポイント。後輩に番組の感想を聞かれたときには、まず、画面には映らない現場の状況や事情を訊ねることを心がけていたというのです。

本人の気持ちと状況が理解できていると、それだけアドバイスが的確になるわけです。

(3)注意する(Negative)

ここで気をつけたいのが、「注意する対象」。人格と言動を切り離して考え、人格は否定せずに、言動だけを注意するように気をつけるべきだということ。

そうすれば、相手のためを思う「叱る」と、自分の感情をぶつけるだけにすぎない「怒る」を区別できるというわけです。

例を挙げましょう。「君は注意力散漫だからそんなミスをするんだ」と人格を否定してしまうと、いらぬ反発を生んでしまったり、「自分はダメな人間なんだ」と落ち込ませてしまったりする可能性が生じます。

しかし、「忙しいときは注意力が欠けやすいから気をつけてほしい」と言動を注意した場合は、反発心が和らいだり、自信のない人も自己否定に走りにくくなるわけです。

そして、注意は一度きり。部下を自己顕示欲やストレスのはけ口にすべきではないということです。

(4)明るく送り出す(Positive)

建設的なアドバイスや、自分の経験談(自慢話ではなく、同じような経験をどう乗り越えたかなど)、日ごろ感じている相手のよいところなどに触れ、最後に、機体や信頼を伝えるとよいそうです。

大切なのは、失敗から学び、成長してもらうこと。そこで、叱ることが目的とならないように気をつけることを著者は強調しています。(199ページより)

ほめるとき

「ほめる」という行為も、やり方次第では効果が半減してしまうもの。そこで著者は、ほめるときに気をつけたいことにも注目しています。

むやみに比較をしない

ほめるとき、ついやってしまいがちなのが、他と比較してほめること。もちろん好意があるからこそほめているわけですが、比較すると、一方を貶めることになってしまうからです。

たとえば、「××よりもおいしい!」とほめるより、「○○なところがおいしい!」とほめたほうが、ほめられた側としても素直に喜べるわけです。つまり、相対値ではなく、絶対値でほめることが大切だという考え方。

上から目線にならない

いちばん気をつけたいのが、上から目線の言葉遣いや態度にならないこと。「親しみ」「馴れ馴れしさ」「傲慢さ」はまったく違うものであるにもかかわらず、その違いに気づいていない人がいることを著者は指摘しています。

過剰にほめない

「慇懃無礼」「ほめ殺し」などの言葉があるように、過度にほめすぎると、逆に嫌味に聞こえてしまうことがあるわけです。

贔屓しない

相手に好かれたいのか、あるいはまわりに当てつけをしたいのか、理由はさまざまでしょう。しかし、いずれにしても、多くの人の前で聞こえよがしに、ひとりだけをほめちぎるのはよくないこと。

当然のことながら、それはよけいな軋轢を生んでしまうことになりかねません。

自分にとってのMVPを

活躍が目覚ましい人をみんなが褒めるのは、ある意味で自然なこと。しかしその一方、日々地道に努力している人や、陰で支えてくれている人のことを気にかけることも大切。

きちんと言葉でいたわったり、感謝の言葉をかけたりすると、全体の士気が上がるわけです。それは、「一人ひとりに目を向けて、その人なりの成長や成果を認めている」という姿勢が伝わるから。

ポイントは、相手に敬意を払い、絶対値でフェアにほめることだと著者は記しています。

著者がいうとおり、「言葉の温度」を誤解されないように伝えるのは難しいこと。だからこそ、アナウンサーとしての経験に基づいた本書を参考にしたいところ。

自分にできそうなことだけを取り入れてみるだけでも、コミュニケーションの質が高まるかもしれません。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年10月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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