『情報爆発 初期近代ヨーロッパの情報管理術』 アン・ブレア著

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情報爆発

『情報爆発』

著者
アン・ブレア [著]/住本規子 [訳]/廣田篤彦 [訳]/正岡和恵 [訳]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784120051104
発売日
2018/08/20
価格
5,400円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『情報爆発 初期近代ヨーロッパの情報管理術』 アン・ブレア著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

本の歴史をひもとく

 タイトルが「情報爆発」となればインターネットの情報氾濫に晒(さら)されている私たちの状況に関する本かと思ってしまうが、副題にある通り、本書は本とそれがもたらす情報をどのように人々が管理してきたか、利用してきたか、その歴史をたどった一冊である。本の歴史を文書情報管理の視点から語って読み応えがある。

 著者によれば、情報爆発はいまに始まったわけではない。古典古代の書物がルネサンス期に発見され、写本として世に出る。一五世紀に入ってそこにグーテンベルクの印刷技術が登場、印刷をビジネスとする商業出版がはじまり、大量の本が出現、情報爆発が起こる。その情報の大海をどのように整理管理、検索するか。やがてインターネット時代にも繋(つな)がるさまざまな知恵が生まれた。電子の大海の行く末を案じつつ、著者はそんな書物と人の、情報と人の格闘の歴史を語る。

 例えば、目次が索引が、ノンブルが見出しが生まれる。引用抜粋による詞華集が、さまざまな分野の辞書・事典が、やがては百科事典が編まれる。付箋など読書や編集のための道具が生まれる。近代的な製紙技術が確立、気軽にメモや原稿を書き留められるノートが生まれ、普及する。図書館や個人の書誌目録・蔵書目録、あるいは出版社の販売目録も登場する。校閲や翻訳の技術も発達する。著作権の概念が芽生え、国境を越えた流通も始まる。典拠一覧に謝辞、そしていまあなたが目にしているこの書評が現われる。情報爆発のなかで、どの本を読めばいいのか、そのガイドである……と、本書のトピックを拾えばキリがないけれど、かくして本は生まれた。

 米国の歴史学者によるちょっとお堅い学術書ではあるが、本好きには興味津々の一冊だ。読んで書いて蒐集(しゅうしゅう)して整理管理する、そんな人間の執念を本書に見せつけられつつ、我が積ん読本の山を眺めれば「情報爆発もまた楽しからずや」ではある。住本規子・廣田篤彦・正岡和恵訳。

 ◇Ann M. Blair=1961年生まれ。歴史学者。米ハーバード大で教べんを執る。著書に『自然の劇場』など。

 中央公論新社 5000円 

読売新聞
2018年10月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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