<東北の本棚>言論活動 現代への視座
[レビュアー] 河北新報
「民本主義」を唱えて大正デモクラシーをけん引した吉野作造(1878~1933年)の精力的な言論活動はいかなる背景を持ち、日本の進路にどんな影響を与えたのか。生誕140年の節目に出版された本書は、激動の時代を駆け抜けた生涯に多角的に光を当てている。
宮城県大柿村(現大崎市古川)で生まれた吉野は東京帝国大を卒業後、1910年から3年間、欧米に留学した。第1次世界大戦勃発を前に労働者のデモやストライキなどを多数目撃。緊張する国際情勢が政治を考える礎となった。
中央公論に民本主義の論文が掲載されたのは16年。法律の理論上の主権の所在は問わないまま「主権者はすべからく一般民衆の利福ならびに意向を重んずるを方針とすべし」と主張。吉野の目には当時の憲政が「破綻百出」の状態にあると映り、「奮って改善・進歩の途」を講じなければならないとの信念があった。
東大教授の職を辞して朝日新聞社に入社した24年には「舌禍事件」が起きる。五箇条の御誓文は明治政府の「窮余の結果」という趣旨の講演をし、一部右翼的勢力から不敬罪に当たると告発された。枢密院を「無用有害の制度」と批判した論説についても検察当局が問題視。退社を余儀なくされた吉野は窮乏や病に苦しみながら晩年まで明治文化研究などに力を注ぐ。
著者は「吉野の諸論文は、時代に切り込む迫力をもっていたがゆえに、幅広く歓迎を受けた半面、激しい反発もまねき、それが吉野自身の運命を大きく左右した事実もあった」と記す。
言論制約が強まる中で展開した「時代の臨床診断」は、憲法改正の議論が飛び交う今も立憲主義のありようを考える貴重な視座を与えてくれる。吉野の思想形成に影響を与えた師・友人らを併せて描いた点も本書の魅力だろう。
著者は49年静岡県生まれ、東京教育大大学院文学研究科博士課程中退。桜美林大教授。
清水書院03(5213)7151=1296円。