<東北の本棚>本当の気持ち 細やかに

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君に言えなかったこと

『君に言えなかったこと』

著者
こざわたまこ [著]
出版社
祥伝社
ISBN
9784396635503
発売日
2018/08/08
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>本当の気持ち 細やかに

[レビュアー] 河北新報

 2012年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞した、南相馬市出身の著者による書き下ろし短編集。
 田舎からともに上京した友人同士、学生時代結婚を考えていた元カップル、万引をした主婦とコンビニの店員、亡くなった母とその娘-。登場人物は、どこにでもいそうな普通の人たち。人生で誰もが経験しそうな題材を取り上げ、丹念に掘り下げた。
 著者は彼ら彼女らの心の動きを、まるで小石を積み上げるかのように一つ一つ細やかに描き出す。反感、憧れ、劣等感、いらだち、誤解、すれ違い、そして共感-。相手に対し、心の底に抱きながら伝えられなかった本当の気持ちが、薄紙を剥ぐように立ち現れてくる。
 全6編中、爽やかな余韻が際立つのが「君のシュートは」。舞台は高校の女子バスケ部。2年の遠藤夏生は、同級生のチームメート島谷奏と、先輩たちの派閥争いを機に「親友ごっこ」を始める。
 転校を繰り返し友達付き合いが苦手な夏生と、人気者で次期部長候補の奏は全くソリが合わない。だが、「ごっこ」を続けていく中、互いに違う一面に気付いていく。
 秋を前に夏生の転校が決まる。部活最終日、レギュラーメンバーを決めるミニゲームでの二人の描写が秀逸だ。夏生と奏、両者の心の通い合いが、ゲーム展開を通じて表される。残り2分弱。相手の包囲を懸命にかき分け夏生がパス。ボールを受け取った奏がシュートを放つ。ゲームと二人の感情のクライマックスが重なり、風が吹き抜けるような爽快感に包まれる。ほこり臭い体育館のにおいまで漂ってきそうな臨場感に、学生時代を思い起こす読者も多いだろう。
 祥伝社03(3265)2081=1512円。

河北新報
2018年10月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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