『ふたりのトトロ 宮崎駿と「となりのトトロ」の時代』 木原浩勝著

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ふたりのトトロ -宮崎駿と『となりのトトロ』の時代-

『ふたりのトトロ -宮崎駿と『となりのトトロ』の時代-』

著者
木原 浩勝 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784062210133
発売日
2018/09/06
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ふたりのトトロ 宮崎駿と「となりのトトロ」の時代』 木原浩勝著

[レビュアー] 一青窈(歌手)

手描きの線が生む“希望”

 我が子がせがむ度に観(み)るトトロ。台詞(せりふ)を覚えるほどくり返し観ているのに、なぜ息子と娘は飽きることなく歓声をあげるのか。何故に私はトトロが気合いを入れてどんぐりが芽吹くシーンで、こんなにも胸の奥底がきゅうと喜びに共鳴するのか。答えは当たり前なほどに簡単だった。一つの作品に賭けている情熱も努力も苦労も何もかもが凄(すさ)まじいのである! この本は映画『となりのトトロ』の制作デスクを担当した木原さんによる、宮崎駿監督やスタジオジブリにまつわるお話である。

 あくまでも私の解釈であるが、たくさんの宝探しができるように宮崎駿監督は1コマ1コマにそれはそれは丁寧に、優しい眼差(まなざ)しで、ちょいとばかし魔法の粉をかけている。そうして立ち起こるひとつの物語は、まるで現実にあったか、はたまたこれから起こるのかと信じて疑わないような、夢ともつかない“希望”として我々の心に足跡を残す。ネコバスになって田畑を駆け抜け、メイの気持ちで姉を励まし、かえるになってばぁと声を漏らし、苔生(こけむ)す樹に気持ちを添わせているのはとなりにいる我が子だけではなく、私自身だ。

 宮崎駿監督が木原さんに「この作品は楽しく作ってください」と命を下したように、そこに登場するすべての息吹(いぶ)くものたちの目線で一雫(ひとしずく)も不思議がないように、しかし喜びが溢(あふ)れるように、徹底的に細部まで描写にこだわってトトロは作られている。すべての線が生きるという意志を持って根を張っているのだ。手描きとデジタルの違いはここに出るのだと思う。

 育児中だから、若くないからもう書けないのだ、なんて逃げは通用しない。詩作に悩むなんて100年早いのだと言わんばかりに宮崎駿監督は作品そのもので私を追い込む。悩めるすべてのクリエイターにお薦めします!! そう言えば! トトロがコマを回す瞬間に出したあの紐(ひも)はどこに消えたのかは書いてなかったのでそれだけが謎のまま(笑)。

 ◇きはら・ひろかつ=1960年、兵庫県生まれ。『天空の城ラピュタ』、『魔女の宅急便』などの制作に関わる。

 講談社 1500円

読売新聞
2018年10月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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