『日本敵討ち異相』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『日本敵討ち集成』
- 著者
- 長谷川 伸 [著]/伊東 昌輝 [編集]
- 出版社
- KADOKAWA
- ジャンル
- 文学/日本文学、小説・物語
- ISBN
- 9784041067451
- 発売日
- 2018/09/22
- 価格
- 792円(税込)
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“敵討ち”のテーマに拘った大衆作家の遺作
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
『瞼の母』等の股旅ものや、『相楽総三とその同志』等の史伝文学で知られる長谷川伸は、作家生活の初期から“敵討ち”を創作活動のテーマの一つに据えていた。
そして今回、復刊された『日本敵討ち異相』(角川文庫)は、作者が最後まで書き続けた遺作である。全十三話が収録されており、恐らく作者の健康が続けば、話数はもっと増えていたことであろうと思われる。
というのは、本書と同時にはじめて書籍化される『日本敵討ち集成』(角川文庫)が同時刊行されており、それが、戦前から集められ、空襲警報が鳴るたびに、防空壕に運ばれたトランクの中に入った草稿、三百七十篇中の二十七篇をまとめたものだからである。
長谷川伸の敵討ちものは、一種、敵討ち研究の趣きがあり、長篇『荒木又右衛門』(上・下巻、徳間文庫、絶版)は、日本三大敵討ちとして知られる、鍵屋ヶ辻の決闘は、敵討ちではなく、実は上意討ちとして成立したこと。卑属は尊属の敵討ちは出来ても、その逆は出来ない、ということ、つまりは、父の敵や兄の敵討ちは可能でも、その逆は出来ないということ。一歩間違えばこの事件は、旗本と大名間の政治的抗争になりかねなかったことなどを明らかにし、荒木又右衛門の敵討ちを完全に講談の世界から解放している。
さて、『日本敵討ち異相』だが、この“敵討ち”の異相をもって実相とした作者は、中央公論の連載に当たって書かれた著者のことばの中で、「異質のもの(敵討ち)ばかり選んで書きました。異質なものと言ったのは、人間と人間とがやった事を指しています。それは現在の人間と人間とがやっている事と、共通していたり相似であったりだと言うことです。そうして又、現代人が失った清洌なものだってあります」と語っている。またこの一巻には山本一力の出色の解説が光っている。山本は「師(長谷川)は戦火も大地震も潜(くぐ)り抜けてこられた。つまり死は常に身近にあった時代が生涯の大半であられたのだ。/生きることの尊さを、死と背中合わせの敵討ちを通して示された」といい、その本質をとらえている。