江戸のお仕事小説――『刀と算盤(そろばん)馬律流青春雙六』著者新刊エッセイ 谷津矢車

エッセイ

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刀と算盤 : 馬律流青春雙六

『刀と算盤 : 馬律流青春雙六』

著者
谷津, 矢車, 1986-
出版社
光文社
ISBN
9784334912468
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

江戸のお仕事小説

[レビュアー] 谷津矢車(小説家)

 思えば、実在の人物が一切出てこない小説を書くのは、たぶん五年ぶりです。

 ……と書くと、普段お前はどんな小説を書いているんだと訝しくお思いの方もいらっしゃると思いますので自己紹介。谷津矢車と申しまして、主に歴史小説を書いております。一般に歴史小説というと、歴史的事実や歴史上の人物にカメラを向けるものなので、どうしても実在の人物が出てくるものですし、歴史小説と近縁の存在である時代小説も、過去を材に取る以上、実在の人物が登場することは何ら不思議もありません。これまで、歴史小説と時代小説を九対一くらいの割合で書いてきました関係もあり、実在の人物が出てこない小説を書くのが久しぶりなのです。

 それにしても、実在の人物がいないということは、楽しくもあり大変でもありました。普段、実在の人物のキャラクター性に随分寄りかかっていたのだなあと反省しきりです。一方で実在の人物がいない分、歴史的整合性(いわゆる時代考証、歴史考証ってやつです)に縛られることも相対的に少なく、伸び伸びと書けたなあという気もしています。

 今回、「江戸のお仕事小説」を書きました。江戸時代は、現代には存在しえない仕事がたくさんあって、働く意識にも大きな違いがあります。けれど、みんな、食うために働いていたでしょうし、仕事にやりがいを見出していた人も中にはいたはず。そんな江戸の人々を、世間知らずの若い御家人(ごけにん)・新右衛門と、彼に付きまとう胡散臭い経営コンサルタント唯力の目から書いてみました。軽やかで爽やかな青春小説みたいな仕上がりにもなりましたし、普段、歴史小説や時代小説をお読みにならない方でも予備知識なしに読める本になったのではないかと自負しています。皆様の本棚に加えていただけましたら、作者としてこれ以上の幸せはありません。

光文社 小説宝石
2018年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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