「営業=ブラック」ではない。元野村證券トップセールスが明かす、信頼される営業の心得

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伝説の営業術 ── 元野村證券トップセールスが教える

『伝説の営業術 ── 元野村證券トップセールスが教える』

著者
津田晃 [著]
出版社
プレジデント社
ISBN
9784833422888
発売日
2018/08/30
価格
1,650円(税込)

「営業=ブラック」ではない。元野村證券トップセールスが明かす、信頼される営業の心得

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

最近の若い人たちの間では、営業という仕事は人気があまりないようです。 厳しいノルマ、押し売りまがいの営業トーク、上司からのパワハラ…。 ブラックな職種の代表のように思われているのかもしれません。

犯罪スレスレの企業に勤めることはまったく勧めませんが、営業という仕事すべてがブラックであると、私は考えていません。 お客様にとって魅力的な商品を紹介して購入していただき、その対価で会社が潤うのはビジネスの基本。

その仲介をするのが営業ですから、営業こそビジネスマン中のビジネスマンだと確信しています。 若い人たちが営業はブラックな仕事だと誤解してしまうのは、自分の身の届く範囲のことしか見えていないこともあるのではないでしょうか。(「はじめに」より)

元野村證券トップセールスが教える 伝説の営業術』(津田 晃著、プレジデント社)の著者はそのような気持ちから、営業という仕事を大きな視点で眺めてみることを目的として本書を書こうと思い立ったのだといいます。

43歳の若さで最年少役員に抜擢された、元野村證券トップセールス。当時の社長から“営業の鑑”と評された実績の持ち主でもあります。

そんな立場から見た風景を伝えることで、上司からの叱咤激励にもそれ相応の意味があることや、ノルマの真の意味などがわかってもらえるのではないかと考えたのだそうです。

きょうは第3章「お客様に『この人から書いたい』と思ってもらうコツ」に焦点を当て、いくつかのポイントを抜き出してみたいと思います。

口は一つ、耳は二つ。お客様の声は「自分の話の2倍」傾聴する

営業というと、「話し上手」であることが必要であるように思いがち。しかし著者は、話し上手は営業の絶対条件ではないと断言しています。

話し上手、説明上手であるにもかかわらず、成績が上がらなかったり契約をまとめるのが下手な営業は少なくないというのです。それどころか逆に、朴訥なしゃべり方しかできない人がトップ営業マンであるケースも少なくないのだとか。

その理由は、営業のいちばん大事な仕事は話すことではなく、「聞く」ことだから。じっくり腰を据え、お客様がなにを欲しているかを知ることが、営業という仕事の第一歩だということ。

そして、そのことを念頭に置いたうえで、著者は「営業がするべきこと」を次のようにまとめています。

①顧客のニーズを知る

②そのニーズに合致した提案をする

➂金額や納期の確認をする

④成約

(81ページより)

ところが話し上手な営業は、じっくりとお客様のニーズを探る前に商品の説明や提案をしてしまうというのです。つまり①をすっ飛ばし、②も不完全になっているということ。

するとその結果、ある程度話が進んだとしても、「やっぱりいいや。今回はご勘弁」となってしまうことになってしまうかもしれません。これが、話し上手な営業が陥りやすい失敗パターンなのだそうです。

著者は、「口がうまい営業は、無意識のうちに会話の主導権をお客様から奪ってしまう」という大きな欠点を持っていると考えているそうです。

もちろんお客様のニーズを探ろうとしてはいるのでしょうが、つい自身が会話の主導権を握ってしまうということ。そうなると当然のことながら、お客様のほうは「聞く側」に回ることになります。

しかし、お客様が聞く一方になってしまうと、

「お客様は、こういう商品を望んでいるのではありませんか?」

「こういう商品が手に入れば便利だと思いませんか?」

「この商品が○○円なら安いと思いませんか?」

というように、お客様がイエス・ノーで答えれば済む質問形式で営業トークを進めてしまいがち。しかし、それではお客様の細かいニーズを探ることができません。

しかも厄介なのは、質問の答えとニーズがぴったり一致しているお客様には、この方法でも売れてしまうこと。

下手に売れるからこそ、自分の営業が不完全であることに気づけない人が意外に多いというわけです。そしてその結果、疑問や問題点を感じたお客様には売ることができない、打率の低い営業を続けることになってしまうということ。

だからこそ著者は後輩を指導する際、「人間の口は一つ、耳は二つ。神様は自分がしゃべる倍、聞けるように耳を二つにしたんだ。だからお客様の話は耳でしっかり聞いてくるように」と伝え、傾聴することの大切さを説いてきたのだといいます。(80ページより)

お客様のニーズにこたえる営業にリピーターは集まる

講演などで「営業とはなにか」を伝える際、著者はよく百貨店の店員の話をするのだそうです。

ーー奥さんが欲しがっているスカーフを、明日の結婚記念日のプレゼントに買おうとしている男性がデパートに現れました。

Aの店員は「売り切れていて、今、在庫がありません」 Bの店員は「売り切れていますが、明後日ならご用意できます」 Cの店員は「メーカーに聞いてみたところ、近くの○×デパートにはあるらしいので、お急ぎなら、そちらをご利用なさったらいかがでしょうか」 とそれぞれ答えました。

AとBは販売、Cは営業だと私は考えます。その理由はなぜでしょう。(84ページより)

この話をすると、大多数がなんとなく「Cの対応が営業だ」と想像できはするものの、はっきり答えを述べられない人が多いのだそうです。しかし、答えは簡単だと著者は言います。

つまり、お客様のニーズにこたえているのはCの店員だけだということ。お客様のニーズにこたえるのが営業という仕事の本質であるため、Cのみが「営業をした」と言えるというのです。

そして、いちばん多くの利益を獲得するのもCの店員。Cの誠意ある回答に、何割かの人は「それじゃ悪いから、明後日でかまわない。女房にはプレゼントは明後日になると言えばいいことだから」と答えるかもしれないということ。

残りの人も、別の機会があれば必ずCから書いたいと思うはずだといいます。

お客様との信頼関係は、お客様の利益こそが最優先だという姿勢から生まれるもの。Cの店員は「明日、スカーフが必要だ」というお客様の思いを最優先し、他者である○×デパートを紹介しました。

せっかくのお客様を手放すのですから、もったいない行為にも思えます。しかしお客様の目からCは、「自分の利益にならないことにも全力を尽くしてくれる、信頼できる人」と見えるはず。

近年、「アドボカシー・マーケティング」という考え方が広まっているそうです。アドボカシーとは、支援、擁護、信奉という意味。

つまりは徹底的なお客様第一主義によって顧客満足度を高め、リピーターを増やし、お客様を企業の信奉者にすれば、より大きな利益を企業にもたらすという発想。

もともと日本では、優秀な営業は他社製品を薦めることも厭わない傾向があったといいます。もちろんそれは、他のお客様に自社製品を売る自信があるからこそ。

しかし、お客様のためにソリューションを考えることが営業の仕事だという意識が高いため、自社に不利な情報も開示するということ。

優秀な営業マンほど、お客様はそういう営業の大ファンになることを知っているのだといいます。(84ページより)

ズルい営業に2度目の面会はない

お客様からいちばん信頼されないのは、ダメな営業ではなく、ズルい営業。ダメな営業は、たとえ失敗したとしても「次はちゃんとやってくれるかも」とお客様から思われる可能性があります。

ところがズルい営業は、「あいつはどうも信用できない」と敬遠されてしまうというわけです。

では、ズルい営業とはどんな人なのでしょうか? 著者によれば、それは「いつも逃げ口上を用意している」人。

たとえば証券営業だった私の場合、「相場が悪いですからしょうがないですね」という一言がズルい営業の免罪符でした。

株式でどんなに損をさせても「相場が悪いから」という言葉一つで責任逃れをすることができます。だからこそ、私はこの言葉を絶対に使わないようにしていました。

自分の見込み違いでお客様に損をさせた時ほど、きちんと面会に行き、どういう考えでその株をお薦めし、どういう理由で損をさせることになったかをきちんと説明することを自分に課していました。(87ページより)

もちろん、その結果として離れたお客様も少なくないといいます。しかし、その後もおつきあいをすることができ、汚名返上のチャンスを与えてくれた人もたくさんいたといいます。

相手のほうに信頼の気持ちがほんのひとかけらでも残っている間は、まだ「お客様」でいてくれるもの。しかし、ひとたび相手に「あいつは逃げたな」と思われてしまったとすれば、そこで信頼関係は終了してしまうわけです。

各業界で、それぞれの逃げ口上があるものです。しかしその言葉は今後一切、口にしないと決めてほしいと著者は訴えています。

なぜなら逃げ口上は、必ずお客様の心象を損ねるものだから。いいかえれば、逃げ口上なしの茨の道こそ、一流営業への道だということです。(87ページより)

お客様は完璧な回答より、素早い返答を待っている

どれだけ想定問答を頭のなかで組み立てていても、突然お客様から返答に窮するような質問をされてしまうことはあるもの。

そんなとき、生返事をしてお茶をにごす営業は三流だと著者はいいます。そして、「社に帰ってからお調べして連絡いたします」と答え、何日か経ってから完璧な回答をする営業は二流なのだそうです。

では、一流の営業とは?

「すぐにお調べします」と、表に出た途端に調べはじめ、1割、2割のことがわかったらすぐにお客様へ一報する。こうした素早い対応を常に心がけている人が、一流なのだそうです。

1週間後に満点の回答をしたほうがいいようにも思えますが、それではお客様の満足度はせいぜい2割程度。逆に2時間後に2割の答えをすれば、お客様は8割方満足するものだというのです。

たいていの場合、お客様はレスポンスの正確さより、レスポンスの速さを求めているものだから。

「とにかくクイックレスポンス」を昔から心がけてきたという著者は、近年はますますそれが重要になってきたと考えているそうです。インターネットが発達した現代では、不明なことはお客様自身で調べることも可能になってきたから。

なのに回答に1週間も時間をかけていたら、お客様からすれば「買う理由」もなくなってしまいかねないわけです。(93ページより)

他にも「小さな習慣を積み重ねることの重要性」「“心構え”と“準備”の大切さ」「見えないところですべきこと」「リーダーとしての心がまえ」など、営業という仕事に必要なことをさまざまな角度から掘り下げています。

「営業はつらい、嫌だ」と否定的な気持ちになる前に、読んでおく価値はありそうです。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年10月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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