<東北の本棚>「実践的な学び」論じる
[レビュアー] 河北新報
知識偏重から実践的な学びを重視する生涯教育へ-。障害児教育やIT技術を生かした教育ツールの開発経験を持つ著者が、転換期を迎えた教育界の今後について人工知能(AI)と比較しながら論じた。
記憶や学習、判断などの知的な作業をコンピューターに任せる人工知能は、問いと答えのセットを次々に学ばせる形式から自律的な学習に任せる方式に変更し、予想外の事態に対応できる能力が身に付いた。人工知能自身が囲碁や将棋を学習するソフトが開発され、棋力が一気に向上した。
著者はこうした発想が教育にも生かせると主張する。念頭にあるのは伝統的な芸道の教え方だ。茶道の師匠は学習者に対し、お点前をする季節の違いや「炉開き」などの儀式に応じて設定する環境を変化させ、「どのような時にもお茶をおいしくたてる能力」を習得させる。
著者はかつて自閉症児の教育に携わった経験などを振り返りながら、学習者が自分で判断して行動する力を体得する教育の重要性を説く。
巻末には研究仲間らと、人工知能がベテラン教師の資質を超える可能性と、今後の教育者の役割に関する対談を収録した。
著者は1957年仙台市生まれ。東北大大学院教育学研究科教授。
大修館書店03(3868)2651=1944円。