『大司教に死来る』 ウィラ・キャザー著

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大司教に死来る

『大司教に死来る』

著者
ウィラ・キャザー [著]/須賀 敦子 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784309619927
発売日
2018/08/17
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『大司教に死来る』 ウィラ・キャザー著

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

須賀敦子 翻訳の原点

 一九世紀半ば、新たに合衆国領となったニュー・メキシコに、二人の若いカトリック神父が派遣される。フランスの僻地(へきち)オーヴェルニュ出身のラトゥールとヴァイヨンは、北米からサンタフェに行き、砂漠や荒地を越え、先住民やメキシコ人に布教する。土着の民に君臨する司教との確執、アパッチ族などを避けてアコマ族が住む「大きな丘」に立つ一七世紀の大教会、吹雪のなかを「石の唇」から逃げ込めば、先住民の儀式用の大洞窟が、そして一八世紀の修士バルタサルの伝説と、さまざまな出来事、発見、挿話が走馬灯のように流れる。

 健康で理性的なラトゥールと、蒲柳(ほりゅう)の質で献身的なヴァイヨンの友情の物語でもある。ゴールドラッシュのコロラドに向かったヴァイヨンが、その地で死ぬと、開通した鉄道でラトゥールはデンヴァーに向かう。そのラトゥールも、サンタフェに念願のロマネスク様式の大聖堂が建つと、故郷を想(おも)いながら昇天する。辺境の自然描写が美しい。リオグランデ、トゥーソン等西部劇でおなじみの地名が出て来るので、淡々とした叙事詩的な筆致につられて、ジョン・フォード監督「捜索者」の長い追跡シーンを思い出した。

 これは須賀敦子が卒論代わりとした翻訳、大学生の訳業に驚嘆する。作品は「地方色(ローカル・カラー)文学に属し」、登場人物への「深い同情心」「繊細な景色の描写」が長所だという彼女の指摘は、本質を突く。「若いころから私は滅法と言ってよいくらい翻訳の仕事が好きだった。それは自分をさらけ出さないで(中略)文章を作ってゆく楽しみを味わえたから」(『ミラノ 霧の風景』)と、多くの日本文学を伊訳した須賀は、帰国後、ギンズブルグやタブッキから、死後刊の『ウンベルト・サバ詩集』に至るまで、翻訳を続けた。本書はその原点、フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』、ヘミングウェイ『日はまた昇る』と同じ頃の名作である。

 ◇Willa Cather=1873~1947年。アメリカの女性作家。『われらの一人』でピュリツァー賞を受賞した。

 河出書房新社 2200円

読売新聞
2018年10月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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