『戦慄の記録 インパール』 NHKスペシャル取材班著

レビュー

4
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戦慄の記録インパール

『戦慄の記録インパール』

著者
NHKスペシャル取材班 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000612852
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『戦慄の記録 インパール』 NHKスペシャル取材班著

[レビュアー] 藤原辰史(農業史研究者)

エリートの不遜さ暴く

 大反響をもたらしたNHKスペシャルの書籍化である。イギリス帝国支配下インドの軍事拠点インパールを目指した陸軍は、結局目的地に到達できぬまま、英軍の攻撃を受け撤退し、三万を超える死者を出した。流量が多く川幅が広いチンドウィン河、急峻(きゅうしゅん)なアラカン山脈、地面がえぐられるような激しい雨、そして糧食の欠如に阻まれ、若い命がつぎつぎに尽きていった。

 とくに撤退時は阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄だった。手榴弾(しゅりゅうだん)で集団自決したり、仲間を殺して糧食を奪ったりする日本兵。死んだ若い兵士たちの肉には蛆(うじ)がわき、それをハゲタカがついばみ、腐ったあとは猛烈な雨が屍体(したい)を打つ。雨で洗われた骨であふれていた道を、兵士たちは白骨街道と名付けた。元上等兵の望月耕一さんは「殺してね。肉をね、取ってさ、それをまた、ものと交換して、同じ日本軍同士で、そのぐらい落ちぶれた」とつぶやく。兵士たちは小銃を捨てても飯盒(はんごう)だけは捨てなかった、という。

 本書の最大の読みどころは、第一五軍司令官、牟田口廉也中将に仕えていた齋藤博圀(ひろくに)少尉の日誌と回想録を発見していく過程である。病院で車椅子に乗って登場した齋藤さんの突然の嗚咽(おえつ)に胸を衝かれた視聴者も多かっただろうが、それにたどり着くまでの取材班の執念には鬼気迫るものがあった。なお、齋藤さんは放映から三ヶ月後に息を引き取ったこともわかった。

 回想録には「五千人殺せば」陣地が取れる、という作戦参謀の言葉があるが、「五千人」とは敵兵ではなく日本兵を意味した。齋藤さんは「幼年学校、士官学校、陸軍大学卒」の「奢(おご)り、不遜さ、エリート意識、人間を獣か虫扱いにする無神経さ」を感じたと回想録に記している。

 本書のあとがきでは、この悲劇を現在の自分の状況に置き換えつつ映像を観(み)た人が多かったことも記されている。だとするならば、「インパール作戦」とは現代にいたるまで根治できていない、この国の宿痾(しゅくあ)の別名にほかならない。

 ◇ドキュメンタリーは2017年8月にNHKで放送。同12月に完全版、18年4月には続編が放送された。

 岩波書店 2000円

読売新聞
2018年10月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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