『生存する意識』 エイドリアン・オーウェン著

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生存する意識

『生存する意識』

著者
エイドリアン・オーウェン [著]/柴田裕之 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
自然科学/自然科学総記
ISBN
9784622087359
発売日
2018/09/19
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『生存する意識』 エイドリアン・オーウェン著

[レビュアー] 服部文祥(登山家・作家)

植物状態下の意識探る

 事故や脳内出血で脳に損傷を受け、植物状態になってしまった人は、感じることも、考えることもなく、ただ代謝を続けているだけなのか。それとも脳の命令を運動として出力する部分が壊れているだけなのか。

 脳を損傷しても、瞬(まばた)きやわずかな指の動きなどで意思疎通をおこなう人がいる。植物状態から奇跡的に回復した人が、感覚も意識もあったと告白する報告もある。

 植物状態の患者を脳をスキャンする機械にいれ、テニスの試合をしている自分をイメージするように呼びかけてみる。声が聞こえていて、思考ができるなら、脳の運動をつかさどる部分に血流が集まるのがモニターに映し出されるはずだ……。

 本書は植物状態の人を脳スキャンする研究を追うノンフィクションでありながら、奇妙な縁でその研究に取り組んできた科学者(著者)の半生記でもある。少しずつ性能を上げていくスキャン装置、次第に解明される脳の仕組みを巧みに利用した研究方法などが、人生の出来事や患者との出会いなどと共に時系列で語られ、臨場感と緊迫感にあふれている。

 脳スキャンで何らかの意識を実際に確認できる植物状態の患者は、全体の2割弱。まったく動かない身体の中に閉じ込められていた意識とスキャンを通してコンタクトする瞬間には、激しく心を揺さぶられ、胸が熱くなる。

 だが同時に複雑な問題がそこには存在する。意識があるのにまったく動かない身体に閉じ込められている恐怖を健常者はどう捉えればいいのか。イエスとノーでしか意思疎通ができない植物状態の患者に「死にたいか」と聞くのは残酷なのか。それとも聞かないのが残酷なのか。

 意識とは何か、命とは何か? 将来、人間の記憶と意識をデータ化できたとき、身体から独立した意識は人なのか。最新科学が人間の根本的な在り方に迫ってくる。柴田裕之訳。

 ◇Adrian Owen=1966年、英国生まれ。神経科学者。認知神経科学の分野で先駆的な研究を行う。

 みすず書房 2800円

読売新聞
2018年10月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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