『ムスリム女性に救援は必要か』 ライラ・アブー=ルゴド著

レビュー

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『ムスリム女性に救援は必要か』 ライラ・アブー=ルゴド著

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

普遍的な差別問題

 レイプや名誉殺人は、人びとの関心をダイレクトに惹(ひ)きつける。その悲劇性に加え、人々はやはりその話題に「興奮」してしまうのである。

 本書は、ムスリムの「虐げられた女性」というイメージが、普遍的でグローバルな問題としての女性問題から目を背けさせ、特定の文化の、しかもその男性に暴力性を見出(みいだ)す、差別主義であると喝破している。

 個人主義を極めた近代の人間としては、イスラム圏の女性の扱いを是とする選択肢は存在しない。しかし、著者の主張にも理解できる部分がある。女性が直面する差別や暴力は、決してイスラム社会に限定される問題ではないからだ。問題をイスラムにのみ求めることは、できない。

 最近、この問題について考えさせられることがあった。レイプと恥の問題を取り扱った映画「セールスマン」のプロモーションで、イランの名女優タラネ・アリドゥスティさんとトークショーをする機会があった。そのとき、私は「イラン女性」の直面する運命について質問した。タラネさんは、それはイランだけでなくグローバルな女性問題だとした。程度問題であるとは思うけれども、ムスリムとしての生き方には女性の生き方を縛る部分がある。だが、彼女の指摘も正しい。

 本書は、宗教的価値観と名誉を重視するコミュニティーに生きる等身大の女性について、私たちに多くを教えてくれる。ただ、近代人としての私には迷いがある。彼女たちの生き方を理解し称揚することは解足り得るのだろうか、と。

 一つ確かなのは、中東の問題の多くはそもそも経済格差に求められるということだ。同じ女性でも、身分や地域の格差が存在し、その境遇は一様ではない。女性が苦しんでいる現場には、大抵不平等と格差が存在する。弱者にのしかかる不正義を正すためには、民主化のための戦争ではなく経済発展と公正さが必要だという知見こそ、本書最大の価値であると思う。鳥山純子、嶺崎寛子訳。

 ◇Lila Abu‐Lughod=米国の人類学者。コロンビア大教授。著書に『「女性をつくりかえる」という思想』など。

 書肆心水 3600円

読売新聞
2018年10月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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