『悪童 小説 寅次郎の告白』 山田洋次著

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悪童 小説 寅次郎の告白

『悪童 小説 寅次郎の告白』

著者
山田 洋次 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062207294
発売日
2018/09/07
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『悪童 小説 寅次郎の告白』 山田洋次著

[レビュアー] 戌井昭人(作家)

 車寅次郎(くるまとらじろう)といえば誰もが知っているあの寅さん、喧嘩(けんか)っ早いが人情もろくてお人好(ひとよ)し、各地の祭で啖呵(たんか)売をしている香具師(やし)だ。実家は葛飾柴又、帝釈天の参道にある団子屋で、たまに帰ってくると、なにかしらの騒動を起こし、恋をしては破れ、再びどこかに旅立っていく。寅さんが自身の出生を語っているのが本書で、調子の良いあの口調も健在、目の前に寅さんがいるように語られていく。

 寅さんが、妹のさくらとは異母兄妹(きょうだい)で芸者の子供というのは知っていたけれど、父親との確執は相当なもので、子供の頃は随分辛(つら)い思いもしていたらしいなどなど、このようなエピソードが戦中、戦後の時代背景と重なりつつ語られている。寅さんは昭和の経済成長とともにあると思っていたが、戦争の子供でもあった。いつの間にやらわたしは、実在の人物の自伝を読んでいる気になっていた。

 これは、車寅次郎の人物像を山田洋次監督が緻密(ちみつ)に作り、演じた渥美清に物(もの)凄(すご)いリアリティがあったからこそなのだと改めて思った。この先も寅さんは、我々の側(そば)に居続けてくれそうだ。

 講談社、1300円

読売新聞
2018年10月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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