「コント赤信号」の小宮孝泰が、先立たれた愛妻との思い出を語る
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
私は67歳で、何とか元気にやっております。妻も同年ですが、膝に疾患を抱えつつも、まあ元気です。しかし近年、配偶者を亡くす落語家がいて、当人も逝ったりする例がありました。
コント赤信号のメンバーであり、役者だけでなく落語のプロデュースや演者としても注目を浴びる著者も配偶者を亡くしました。亡くなったのが6年前の今時分ですから、気持ちの整理等がついての出版ということでしょう。
著者の妻は猫マニアです。その妻の撮った写真が何葉かあります。和む一瞬ですが、そうか、この写真の撮影者はすでにこの世の人ではないのだなと、胸を突かれもします。
著者の妻は30歳で乳がんを発症し、骨転移もありましたが、以後12年間生存します。夫婦の馴れ染めから新婚生活、そして発症から看取りまでが語られますが、その文体は決して湿っぽくありません。仕事柄、著者がそこを抑えたのは言うまでもありませんが、それが分かるだけにグッとくるところが多々あります。
亡くなって、こうしてあげればよかったという後悔は誰にもあることでしょうが、あなたは連れ合いに優しくしていますか、ちゃんと会話を交わしていますかと、著者は具体的には言いませんが、問いかけられている気もするのは当然のことです。
巻末に盟友、春風亭昇太師との対談が載っています。昇太師は独身主義ではないと言いつつも未だ独身です。そして著者は独身になりました。著者の妻は昇太落語のファンで、何度も落語会に通い、打ち上げにも参加しました。昇太師は著者の妻の人となりを知っていて、「非常にちゃんとした人で、控え目で、小宮さんが先に死ねばよかった」などと言います。この対談に著者は大いに慰められたのではないでしょうか。
夫婦に別れは必ず来ます。すでに失った人、これからを意識する人にも参考になる一冊だと思います。