• リリース
  • 少年と少女のポルカ
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LGBTやジェンダーを考えさせられる3作

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 今回はLGBTやジェンダーについて考える小説を挙げたい。

 文庫化された古谷田奈月の織田作之助賞受賞作『リリース』は、男女同権が実現し異性愛よりも同性愛や無性愛が主流化、生殖は人工的に行われるようになった架空のオーセル国が舞台。そこでマイノリティである異性愛者の青年が、この社会が「ぼくの人権を侵した」といってテロを決行。その演説を聞いた若者、ビイはその後ジャーナリストを志し、やがてテロの裏側の真相に迫る。

 同性愛者だけでなく、異性愛者で強い性欲を持つ男、男性に愛されることを喜びとする女など、様々な立場の人間が自分なりの解放=リリースを模索する。極端な方向へ偏った社会の危険性と、人間の真の自由とは何かを強く訴えかけてくる。また、ビイの苦悩を通して、報道とその消費のされ方についても痛烈な批判を突き付ける。単行本の発売は2年前だが、タイムリーな文庫化だ。

 再文庫化されたばかりなのが藤野千夜『少年と少女のポルカ』(キノブックス文庫)。男子校に通うトシヒコは、同学年のリョウに片想い中だが言葉を交わしたことすらない。トシヒコの同級生のヤマダは自分を女性と認識しキュロットスカートをはいて登校、唯一自分をからかわないトシヒコと親しくしたがる。トシヒコの幼馴染のミカコはある時から電車に乗れなくなり、学校に通えない。3人の、心を強くもとうとする姿が愛おしい。今回の再文庫化では、後日談2篇が追加され、生きづらさを抱えつつ自分を受け入れている彼らの様子が胸に迫る。

 ランディ・シルツ『MILK ゲイの市長と呼ばれた男 ハーヴェイ・ミルクとその時代』(藤井留美訳、祥伝社文庫、上下巻)は、アメリカではじめてゲイであることをカミングアウトして公職者となり、その後暗殺されたミルクの活動、彼の死後の理不尽に迫ったノンフィクション。マイノリティの中でのさまざまな主張の分裂や政治的な駆け引きなど、当時のゲイ・ムーブメントの流れも読みごたえがある。

新潮社 週刊新潮
2018年11月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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