理不尽なことに負けない「大人の対応力」を身につけるには?

レビュー

3
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大人の対応力

『大人の対応力』

著者
齋藤孝 [著]
出版社
ワニブックス
ISBN
9784847097171
発売日
2018/10/25
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

理不尽なことに負けない「大人の対応力」を身につけるには?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

大人の対応力』(齋藤 孝著、ワニブックス)の著者は本書の冒頭に、世の中はどんどん軽やかな文化になりつつあると記しています。常識が行きわたり、社会が成熟しているからこそ、全体的に人々が“きちんと”してきているというのです。

ところが問題は、そうであるにもかかわらず、かつてとくらべてストレス耐性が弱くなっていることもまた事実であるということ。

昔ならざらにあったようなことでも心の傷となり、ひどい場合はトラウマとなって病院に通う人も少なくないわけです。

そこで求められるのは、本書のテーマである「大人の対応力」なのだとか。

「大人の対応力」とは、いわばディフェンス力。言い換えれば、自分が傷つかないように対応できる力のことです。

自分をきちんとコントロールできる大人は、多少の攻撃にあっても傷つくことがありません。なぜなら、どんな場面においても、フレキシブルに対応できる力があるからです。

決してカッとせず、ムッとせず、力まず、やわらかい選択肢を考えます。当然、不用意に他人を傷つけることもありません。(「はじめに」より)

自分自身をコントロールし、きちんと大人の対応をしておけば、「あいつにこんなことを言われてしまった」「どうしてあのとき、あんなことを言ってしまったんだろう」などと根に持つようなことはなくなるはず。

なぜなら本当の「大人」は、あとで愚痴をこぼさずにすむように、その場でしっかり臨機応変に対応できる力を持っているものだから。

大変な苦労をしている人ほど、自分が大きな歯車のなかで、いろいろな人や物の助けがあってこそ生きていけるのだと感謝しているもの。

そして、そういう人は、どんなことがあっても「たいしたことないよ」と涼しい顔で言える強さを持ち合わせてもいます。経験が豊富なので、大抵のことには動じない本当の「大人」だということ。

そのような考え方に基づく本書では、実際の話(ケース)に照らし合わせながら、真の「大人の対応力」とはどうあるべきかが解説されています。

きょうは、仕事に関連した2つのケースをピックアップしてみましょう。

部下から強めに反論された

部下に仕事を頼んだところ、「今できません」「他の人に頼んでもらえますか?」と、強く反論されてしまいました。 不満でいっぱいのようですが、こちらとしても困ってしまいます。

これは上司からすれば、イラッとする場面のひとつ。「できません」「いま、無理っす」「私がしないといけませんか?」など、さまざまな反論があるでしょう。

しかし、いかなる場面においても、上司や先輩という立場にある人はイラッとした表情を見せてはいけないと著者は訴えています。

そして代わりに、次のような言葉を投げかけてみることを勧めてもいます。

「なるほど、“できません”かぁ…」

「そうか、“いま、無理っす”かぁ…」

いずれも最後の「かぁ…」を強調しつつ、しみじみ言うのがポイントだといいます。

つまり、余裕のある風情で「なるほど」「そうか」と一度納得してみせたあとに、部下の言った“強め”の言葉を反復してみせるということ。

ビジネスシーンにおいて、「できません」「無理です」などの強めの言葉は、テンパっているという“おかしさ”を伴うもの。

それを逆手にとって、部下にそれとなく伝えるというわけです。

ここで注意すべきは、部下の口調を咎めたり、改めたりしてはいけないということ。人間関係を“壊す”のは、「その言い方はなんだ!」と、相手の言い方にケチをつけることだからです。

自分に対して向けられた相手の言葉を注意するということは、感情的になっている証拠。「この人、イラッとしているんだ」と思われるだけだというわけです。

そこで、もし部下の口調にイラッとしたのであれば、このような“プチ腹いせ”をしつつ、部下を採用した人物に物申すようにすべきだというのです。

もちろん、クライアントや自分以外の上司に対する口調が悪かった場合には、それなりの対処をすることが必要

その場合も「その言い方だと誤解を招く可能性があるから、こういうふうに言ったほうがいいかもね」など、やわらかくアドバイスすることが大切。そう対処することで、部下に「上司は親切心で言ってくれているんだ」と受け取ってもらえるわけです。

これが、仕事の内容に関するイラつきであれば、話はまた別。部下に断られてはプロジェクトが進まないなど、さまざまなケースがあるはずなので、そのような場合には“交渉”に持ち込むべきだといいます。

もちろんこの場合も、決して「これも業務のひとつなんだ!」などと怒るべからず。業務命令に違いはないのですが、これでは命令の色合いが濃すぎるため、いかにも“俺は上司だぞ”という嫌味を感じさせてしまうわけです。

そこで、以下のような言い方はどうかと著者はいいます。

「いやさ、△プロジェクトがこの段階まで進んでいるんだけれど、君にここを担当してもらわないと、次の部署にまわせないんだよね。僕はいま◇業務を担当しているから、どうしても君の力が必要なんだ。ここはひとつ、“one of the 業務”ということで、どうにか受けていただきたい!」

こういう砕けた言い方をすれば、部下も笑い、やわらかな雰囲気になるということ。さらに“業務”であることも伝えているのですから、部下としては仕事を断りづらくもなります。

それでも断られたり渋られたりした場合には、「では、どの程度であれば受けてもらえるか?」という、さらに具体的な交渉に入るといいそうです。

「そうか、たしかに全部は厳しい状況だよね。なるほど。では、どのくらいの分量であれば、○日に可能かな? もしくは、この業務が厳しそうであれば△の仕事なら担当してもらえる? △でも無理そうなら◇を担当してもらえるだけでも助かるんだよね」と、分量や仕事内容を部下に選ばせるようにするわけです。

「今の若者は理解できない!」「最近の若者は生意気だ!」と怒り嘆く上司の方は、ご自身の若い頃を思い出してください。

今の若者の口調がタメ口なのは、単純に“クセ”であったり、距離を縮めようと“わざと”そうしている場合もあります。(182ページより)

そもそも、生意気な若者自体がぐっと減ってきていると著者は主張しています。だからこそ部下の口調には鷹揚に構え、「仕事さえしてくれたらいい」というような気持ちで大人の対応をするのがいいということです。(176ページより)

上司がミスを自分のせいにした

上司に指示された仕事をしたところ、その件で先方を怒らせてしまいました。上司は、それを自分(私)のミスということにして先方に謝っています。理不尽で、モヤモヤします。

著者の言葉を借りるなら、そもそも上司というものは自分のミスを認めない存在。少し広げて考えると、人というものは誰しも自分のミスを認めたがらないもの。

要するに「ただの人」である上司は、なかなか自分のミスを認めたくないということ。そればかりか、人は保身をしなければ生きていけません。上司ともなれば、それはなおさらのこと。

さらに、会社のなかで権力を持つ上司は、いかようにでも発言できる立場にあります。権力の悪用とまではいえないにしても、こうしたことは多々あることだというわけです。

考えようによっては、あくまで、ごくごく一般的なこと。あまりに“普通”の権力の用法にすぎないというのです。

ですから、もしもそうした場面に遭遇した際には、「なんだか腑に落ちないなあ」ではなく、「なるほど、これが上司か!」と捉えるようにすべきだと著者は言います。

「トカゲの尻尾切り」という言葉があります。不祥事が発覚した際、部下に責任を負わせて上司が失態から逃れること。トカゲは自ら尻尾を切って外敵から逃れることがあるため、そこから着想を得た言葉です。

上司が自分のミスを押しつけて先方に謝るというのは、まさにこのトカゲの尻尾切りという“パフォーマンス”を行なっているのだということ。

それを理解する必要があるといいます。自分は叱られ役で、上司は叱り役。たしかに、もしもこれが逆で、部下が「私のミスではありませんよ」などと上司に楯突こうものなら、「観客」であるクライアントは納得しないはずです。

要するに、「単純に謝る」という芝居だけでは物足りないということ。謝罪に「本当にすみません、きちんと注意しておきます!」という小芝居をプラスすることで、初めて“パフォーマンス”として成立するという考え方です。

良識ある上司であれば、謝罪の帰りに「ごめんな、おさまりが悪くて。飯でも奢るよ」などと言ってくれるかもしれません。

しかしその一方には、謝るどころか自分のミスであることすら認識していない、あげくは忘れてしまっているような上司も存在します。

部下としては納得できなくて当然ですが、そんな場合も「なるほど、人というものはこういうものだよな。権力ってこういうことだよな…」と、ひとつ腹におさめることが大切だということ。

ただし、あなたが上司になったときに謝罪のできる上司になるか、それともこれくらいの権力行使で謝る必要はないという上司になるか…。それはあなた次第です。(195ページより)

要するに、クライアントに謝罪をする場合には、会社組織のなかで誰かが被害を追う必要が出てくるということ。そして、部下がその立場に立たされる確率が高いわけです。

納得できない部分があるでしょうが、それもまた給料のうちであると考えるようにしたほうがいいと著者は主張しています。(192ページより)

ちなみに呼吸法を専門とする著者は、なにかの対応を問われた瞬間に、「フーッ」と息を吐き、リラックスしてみることを勧めています。

力みや緊張や怒りを、息をゆるめて解くということ。「まず息を吐く」これこそが、「大人の対応」の基本だというのです。その点を踏まえたうえで本書を読み、「大人の対応力」をみにつけてみてはいかがでしょうか?

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年11月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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