『一九四〇年代の〈東北〉表象』 高橋秀太郎、森岡卓司編

レビュー

6
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

一九四〇年代の〈東北〉表象

『一九四〇年代の〈東北〉表象』

著者
高橋 秀太郎 [著]/森岡 卓司 [編集]
出版社
東北大学出版会
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784861633140
発売日
2018/10/15
価格
5,400円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『一九四〇年代の〈東北〉表象』 高橋秀太郎、森岡卓司編

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

新たな自画像を描く

 副題に「文学・文化運動・地方雑誌」とある。戦中から戦後にかけての文学作品や雑誌、そしてそれをめぐる動きから、東北と、さらに北海道や新潟の地がどのように捉えられてきたのか、自らはなにを発信してきたのかをテーマに検証、スリリングな論集となった。東北文学に関心ある読者には読み逃せない一冊である。

 作家・詩人なら島木健作、太宰治、吉本隆明、宮沢賢治、高村光太郎、更科源蔵、石井桃子らが論じられ、雑誌でいえば『意匠』が『文学報国』が『月刊東北』が『至上律』が『北日本文化』が俎上(そじょう)に載る。敗戦前後のカタストロフに、戦争にいかに処したかを問い問われた者が、モダニズムの灯を守ろうと試みた者が、疎開によって「東北」を新たに発見した者がいる。人間の疎開だけでなく、雑誌や出版社そのものの疎開もあれば、戦時下や戦後復興への東北の役割や使命も誌上で模索された。

 なつかしき原風景でありながら近代に乗り遅れた貧しい地域といった正と負のイメージの交錯はもちろん、危機の時代にあってさまざまに東北に寄せられるイメージと東北が発するイメージの錯綜(さくそう)に、東日本大震災後の東北で出版を生業とする私はいまさらながら深く頷(うなず)かされた。震災のカタストロフを経て、いま、東北はどのようにイメージされるのか。例えば半世紀を経て、東北をめぐる現在の文学はどのように読まれるか。それはこの国のなにを象徴するか。東北を中心に東日本の大学に所属する論者たちによる収録八編の論考を読みながら、さまざまに連想が跳ねた。

 さらに、東北のみならずこのような視点で全国各地が読み解かれてもいい。文学や雑誌、あるいはそれに関わる動きにしろ、なにも東京だけが発信源ではない。本書の視点でそれぞれの地域を読み直せば、その地の新しい自画像が描ければ、日本の文学史はもっと豊かに深まる。

 ◇たかはし・しゅうたろう=東北工業大准教授◇もりおか・たかし=山形大准教授。いずれも専門は日本近代文学。

 東北大学出版会 5000円

読売新聞
2018年11月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加