脚本に込められた「仁義なき戦い」の気迫 名セリフがそこに

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笠原和夫傑作選 仁義なき戦い  実録映画篇

『笠原和夫傑作選 仁義なき戦い  実録映画篇』

著者
笠原和夫 [著]
出版社
国書刊行会
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784336063106
発売日
2018/09/25
価格
5,500円(税込)

書籍情報:openBD

「実録」の世界を生んだ脚本に込められた気迫

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 脚本は映画の設計図であり海図だ。制作側も出演者も、そこに書かれた物語と人物像を掘り下げ、肉付けしながら完成というゴールを目指す。

 1973年に公開された映画『仁義なき戦い』は脚本家・笠原和夫の代表作だが、監督した深作欣二、俳優の菅原文太や松方弘樹にとっての代表作でもある。それまで約10年にわたって人気を得ていた「任侠映画」に代わる、「実録やくざ映画」という新ジャンルの出現だった。

 本書には『仁義なき戦い』『同・広島死闘篇』『同・代理戦争』『同・頂上作戦』のシリーズ4作をはじめ、名作『県警対組織暴力』や未映画化作品の『沖縄進撃作戦』『実録・共産党』などが収められている。

 特に第1作の『仁義なき戦い』は脚本で読んでもスクリーンの熱気が伝わってくる。いや、逆だ。脚本に込めた笠原の気迫が熱い作品を生んだのだ。テンポのいい場面展開。人物たちの動きがよくわかる簡潔な「ト書き」。そして強い印象を残した名セリフがそこにある。

 若衆頭の坂井鉄也(松方)が、ふがいないくせに威厳だけは保とうとする組長、山守義雄(金子信雄)を叱りつける。「あんたは初めからわしらが担いどる神輿じゃないの。組がここまでなるのに、誰が血流しとるんや。神輿が勝手に歩けるいうんなら歩いてみないや、のう!」

 また映画のラスト。坂井の葬儀に現われた主人公の広能昌三(菅原)が、祭壇に向かって銃弾を放つ。意地で一喝する山守に、拳銃を持ったまま振りかえった広能が静かに言うのだ。「山守さん……弾はまだ残っとるがよう……」

 公開の翌年、作家の小林信彦が『キネマ旬報』に寄稿した、「『仁義なき戦い』スクラップブック」という文章がある。その中で「実録とは人間喜劇」という笠原の言葉通り、この映画の面白い部分は「裏切りが続出し、だれがどっち側か分からぬ」ところにあると喝破していた。

新潮社 週刊新潮
2018年11月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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