宇宙船という“完全密室”を舞台にした謎解き小説

レビュー

7
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  • 六つの航跡<上>
  • 星を継ぐもの
  • 鋼鉄都市

書籍情報:版元ドットコム

宇宙船という“完全密室”を舞台にした謎解き小説

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 宇宙船とクローン技術。この二つを使って閉鎖状況下のミステリに新風を吹き込んだのがムア・ラファティ『六つの航跡』(上・下巻、茂木健訳)である。

 宇宙を漂う恒星間移民船のなかで、六人の乗組員が目を覚ます。彼らはクローン技術によって再生した人間たちだった。蘇った六人が遭遇したのは血まみれの死体四つと縊死体が一つ、そして意識不明で重篤の患者一人。それらはいずれもクローン再生する以前の体だったのだ。六人は地球を旅立ってから目覚めるまでの記憶が消されており、おまけに船内のAIが改竄(かいざん)され、クローン再生が不可能な状態になっていた。

 宇宙船という完璧な密室を舞台にした謎解き小説だ。特異なのは登場人物全員が記憶を失い、他人を疑いつつも、もしかしたら自分自身こそが殺人者だったのでは、という不安を抱いている点である。己すら信じられないという究極の不信感が、犯人探しをこの上なくスリリングに仕立てているのだ。

 船内の謎解きと並行して、乗組員六人たちの回想も綴られていく。そこでは彼らの抱えている秘密が語られるとともに、クローン技術という禁忌に手を出した人類の歴史も明らかになる。密室内の犯人当てという小さな物語の傍らで、読者は科学と倫理を巡る大きな物語に接するのだ。

 宇宙空間で起こった魅力的な謎を解く小説といえば、ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』(池央耿訳、創元SF文庫)だろう。月面の洞窟から、真紅の宇宙服をまとった五万年前の死体が発見される、という飛び切りの謎が提示され、やがて宇宙規模の壮大な謎解きへと発展していく。論理的思考を辿る楽しさを備えた小説として、今もなお本格謎解きミステリファンから根強い支持を受けるSFだ。

 科学技術と人間の関係を質すSFミステリではアイザック・アシモフ『鋼鉄都市』(福島正実訳、ハヤカワ文庫SF)が外せない。宇宙人殺しの犯人を刑事とロボットのコンビが追う物語で、バディ捜査ものの趣向を持った小説としても楽しめる。

新潮社 週刊新潮
2018年11月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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