堅調に版を重ねる“本の本” ジャンルの壁を越える強み〈ベストセラー街道をゆく!〉

レビュー

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ヴェネツィアの出版人

『ヴェネツィアの出版人』

著者
ハビエル・アスペイティア [著]/八重樫克彦 [訳]/八重樫由貴子 [訳]
出版社
作品社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784861827006
発売日
2018/05/19

書籍情報:版元ドットコム

出版文化全体を貫く“本の本”の大事なテーマ

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

「こういう本は、特にうちのような選書型の個人書店と相性がいいと思っていたのですが、先日、大手チェーン書店さんでもフェア台の目立つ場所に陳列されているのを見かけて“おっ”と思いました。いうなれば“ロングセラーになりうる本”です」

 そう書店関係者が太鼓判を押すのはハビエル・アスペイティア『ヴェネツィアの出版人』。今年5月の発売から4カ月が経ったところで3刷が決まり、“新刊”の定義から外れた後も堅調に版を重ねている。

 活版印刷といえばグーテンベルクのイメージが強いが、ページ番号が振られていて持ち運び可能なサイズの書籍――つまり現在の私たちが想像する“本”の原型を作り上げたのは15世紀に活躍したアルド・マヌツィオという人物。本書はそんな「商業印刷の父」の生涯を綴った、濃密でドラマチックな伝記小説だ。

 こういう“本の本”は昔から熱いファンが多く、直近の刊行物でいえば、今年の本屋大賞のノンフィクション部門にもノミネートされている『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(内田洋子、方丈社)が各所で大きな話題を呼んでいる。『ヴェネツィアの出版人』はあくまで定義上はフィクションだが、同書と並んで書店に陳列されることも多い。そうした、ジャンルの壁を越え有機的なつながりを喚起しやすい点も、この手の本の強みだと前出の個人書店関係者はいう。

「ネットで“おすすめ”されるのが当たり前の時代になり、ユーザーが主体的に本を選ぶ力は減退している。だから平台でキャッチーに展開する必要があるのですが、たいていは新刊や、すでに話題となった本を積み上げるだけで終わるため、かえって店としての寿命を縮めてしまう。一方、この本には出版文化全体を貫く大事なテーマが詰まっている。だから何年経ってもフェアの中核を担える可能性があるんです」(同)

 本書では、アルドが当時の売らんかな主義に疑義を呈し、良書の流通に腐心した姿が描かれる。そこに今進むべき道も透けて見える。

新潮社 週刊新潮
2018年11月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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