50歳を過ぎてからも、何かを成し遂げることができるんだ。

インタビュー

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ふるさとは本日も晴天なり

『ふるさとは本日も晴天なり』

著者
横山雄二 [著]
出版社
角川春樹事務所
ISBN
9784758442091
発売日
2018/10/11
価格
734円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【特集 横山雄二の世界】『ふるさとは本日も晴天なり』刊行記念インタビュー

[文] 石井美由貴

横山雄二
横山雄二

広島で知らぬ者はないといわれる人気アナウンサー、横山雄二。MCを務めるラジオ番組は歯に衣着せぬ本音トークが評判を呼び、爆笑問題の太田光氏はじめ全国にもファンは多い。そんな横山雄二が小説を発表した。『ふるさとは本日も晴天なり』である。自叙伝的な内容はそのキャラクターに反して父と息子の絆を描いた感動作だ。この処女小説はいかにして生まれたのか。創作の舞台裏を伺った。

 ***

――アナウンサーというフィールドにとどまらず、エッセイの執筆や映画監督をされたりと多彩な活躍をされてきましたが、今度は小説を発表。本作『ふるさとは本日も晴天なり』はどういった経緯で生まれたのでしょう。
横山雄二(以下、横山) 経緯もなにも、青天の霹靂とはまさにこのこと。小説を書くことになるなんて思いもよりませんでした。作中でも書いていますが、僕は中学生のときから角川映画が大好きで、角川春樹に憧れ、自分も映画の世界に行きたいと思うような夢見がちな少年だったんです。結局放送局に入ったわけですが、ひょんなことから春樹社長に会うことができ、以来甘えながらもお付き合いをさせてもらえるようにもなりました。それがある日、小説を書かないかという。ああ、そうか、そういうことか、これまでの時間はこのためだったのか、という不思議な気持ちになりましたが……。とにかくその場は笑ってやりすごそうとしてて。

――断るつもりだったということですか?
横山 絶対無理だと思いましたからね。以前映画の監督をするチャンスがあって脚本も書いたんですが、作品に関わる多くの仲間から尻を叩かれ、自分ではビンタされてるぐらいの気持ちになりながら、死に物狂いでどうにか仕上げました。でも小説となれば一人の作業。支えてくれる仲間はいませんよね。僕は物事を最後までやり遂げるということが極端に苦手で、約束が果たせたことなんて一度もないんです。引き受けても逃げ出してしまう気がしたし。それに、あまりにも唐突すぎて、どうせ思いつきなんだろうなと高を括っているところもありましたから。

――思いつきではないと悟ったのは?
横山 編集担当の岡濱さんをご紹介いただいてからですね。言葉は優しく、ともに歩んでいきますからという姿勢も示してくださるんですが、まるで真綿で首を絞めるようにジワジワ追い込んでくる。あー、捕まったなと。もう不良に絡まれた中学生のような感じですよ。

――悪徳業者のように聞こえますが……。
横山 いやホント、人さらいにあった気分でした(笑)。断れないんだと気づいたときは、むしろショックというか……。

――でも、ようやく覚悟を決めることができた。
横山 いえ、本当に覚悟ができたのは書き始めて少し経ってからです。なんとか書き進めながら半年ほどが過ぎる頃、これ、つまらないんじゃないかと思うようになりました。小手先でごまかそうとしている感じがして、それまでの分は没にしてほしいとお願いして。小説を書くとはどういうことなのか、半年かけて向き合うことができたのかもしれません。ここからが本当のスタートでしたね。

――そして書かれたのは家族の物語。主軸となっているのは父と息子の絆ですが、この題材を選んだのはなぜでしょう?
横山 先ほども映画が好きだと言いましたが、僕はどの映画監督もデビュー作が一番面白いと思っています。というのも、その作品に持ちうるすべての力を注いでいるから。実際に知り合った監督さんも必ずといっていいほど、一作目で自分を出しきったと言い、また主人公には自分が投影されていると。だったら僕も自分をさらけだすしかない。内から出てきたものでしか太刀打ちできないだろうなと思いました。

――ご自分を語る上でお父様は欠くことのできない存在だったんですね。
横山 父親からはすごく刺激を受けましたし、憧れの存在でしたから。

――強さと優しさを持ったカッコいいお父様ですね。
横山 だいぶ美化されてますけどね(笑)。春樹社長もそうですが、僕は同性のガンガン前に進んで行くような人に小さな頃から憧れていたんだなと、書きながら改めて思いました。小説の中で主人公が「誰かに憧れられる存在になりたい」と言っていますが、その憧れ力(りょく)で自分が高まっていくこともあります。僕もいろんなことを経験させてもらいました。父親が亡くなって時間も経っていますが、書いている間、僕は毎日ドキドキしながら父親に会うことができた。おやじ、どっかで読んでくれねぇかなとも思いますね。実は一番読んでほしいのが亡くなった父親です。

――なんて言ってくださるでしょうね。
横山 顔が浮かぶんですよ。満面の笑みで、でも、照れくさそうにしている感じもあって、それでも饒舌に語ってくれるんじゃないかと思います。

――きっと喜んでくださるでしょうね。正直に言わせていただければ、泣かされるとは思いもしませんでした(笑)。ラジオで聴く大胆不遜な横山節とはまったく違っていますし、ファンやリスナーの方も驚かれるのでは?
横山 僕のことを知らない方にも読んでほしいと思いながら書いていますので、ありきたりな表現ですが、いい意味で期待を裏切ることができていたらいいですね。ラジオって基本的にはタダで聴けますが、本はお金を出して買っていただくものなので、ものすごく特別なことだと思います。だから買うに値する何かを提示しなければとも思っているので、そうおっしゃっていただけるのなら、高笑いしたいです! まぁ当面はリスナーの方が読書感想文みたいにしてあれこれ送ってくれると思うので、いい題材が提供できたかなと。

――執筆の苦労もすでに過去ですね?
横山 あれほど嫌がっていたのにね(笑)。今は本を書く機会を与えてもらったことに感謝しています。それも恋焦がれていた人の元で出すことができた。あの夢見がちだった男の子が、夢をただの夢では終わらせなかったんだなと読んでくださった方に思ってもらえたなら、それはこの本の一番のリアリティなのかもしれないですね。

――これまでもさまざまな経験を通してご自分の糧にもされてきたと思いますが、今回の執筆は今後の横山雄二に何か変化をもたらしそうでしょうか。
横山 そうですね……。人生に、より欲張りになったかもしれないですね。一生終わらないんじゃないかと思うこともあったけど、最後までやることができた(笑)。50歳を過ぎてからも何かを成し遂げることができるんだと、これから先の日々に勇気をもらうことができたと思っています。小説を書くということは、ものすごい魔力があるのかもしれませんね。

構成・インタビュー:石井美由貴

角川春樹事務所 ランティエ
2018年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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