『世界史のなかの文化大革命』 馬場公彦著

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世界史のなかの文化大革命

『世界史のなかの文化大革命』

著者
馬場 公彦 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784582858914
発売日
2018/09/18
価格
993円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『世界史のなかの文化大革命』 馬場公彦著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

輸出された熱狂と混乱

 1966年から10年にわたった「文化大革命」は今も謎が多い。中国では政治的な理由で、文革の研究公開も、文革を公式の場で語ることも禁じられている。海外でも、文革を中国一国内で完結する事件と見る傾向が強く、国際的な視野に立つ論考は少ない。本書は、文革を20世紀の世界史の流れから大局的に見直す新しい文革論である。

 1965年、インドネシアで「9・30事件」が起きた。この、中国黒幕説もある陸軍左派によるクーデターは、一日で鎮圧されたが、影響は大きかった。その後の「赤狩り」による虐殺の犠牲者は50万とも100万とも言われ、華僑への迫害も起きた。

 中国の毛沢東は、大躍進運動や人民公社で大失敗し、主導権を劉少奇やトウ小平らに握られていた。9・30事件の1年後、毛は実権を取り戻すため、文革を発動した。9・30事件失敗の教訓から、権力内部の奪権闘争ではなく、下からの大衆動員という新方式を採用した。

 軍のトップである林彪(りんぴょう)は『毛沢東語録』を編集し、毛沢東思想の対外宣伝の陣頭指揮を取った。熱狂と混乱は世界に輸出された。発展途上国のみならず、フランスやアメリカ、日本など西側諸国も、若者の世界同時多発的な反乱「1968運動」で揺れ動いた。日本でも文革礼賛派と批判派が対立した。文革に心酔し中国をうらやむ新左翼もいれば、いち早く真相を見抜いた大宅壮一のような評論家もいた。

 文革の欺瞞(ぎまん)は、71年の林彪事件で暴露された。林彪のクーデター未遂と9・30事件には、アジア的な構造的類似性があった。

 インドネシア、中国、そして世界を巻き込んだ革命の熱狂は、惨憺(さんたん)たる失敗に終わった。しかし今日「時代閉塞(へいそく)のなかでの破壊願望がさまよい、造反のための暴力のマグマはたまっていくことだろう」と著者は指摘する。文革の夢はついえて久しいが、その残響は今もこだまし、亡霊が徘徊(はいかい)しているのである。

 ◇ばば・きみひこ=1958年生まれ。専門は東アジア論・日中関係論・メディア論。中国伝媒大名誉教授。

 平凡社新書 920円

読売新聞
2018年11月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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