<東北の本棚>多岐にわたる民俗記録
[レビュアー] 河北新報
民俗学の先駆者、菅江真澄の業績を多角的に照射、再考する。東京学芸大の石井正己教授を中心に、33人の研究者が分野ごとに担当、編集に当たった。
江戸時代、現在の秋田、青森、岩手県を旅し、膨大な民俗記録を日記に残した真澄。人々の暮らし、民謡、方言、災害記録など内容は実に多岐にわたる。
真澄を見いだしたのが柳田国男だが、真澄が旅先で詠んだ歌については「凡庸だ」と酷評した。しかし「真澄の歌にはその土地の地名や風物を詠み込むなどして、日記を読む人に分かりやすい歌が多い」と秋田県立博物館・松山修主任学芸主事は言う。<いづれをかかづの郡の名もしるくおじかあらそふ秋の山かげ>は、秋田・鹿角で、2頭の雄鹿が角を押し当て争っている光景を詠んだ。真澄の歌は計5300首に上る。
「実地に検証しようとする真澄のフィールドワークの姿勢は、現代の地質学、地理学と同質のものといえる」とは菅江真澄研究会・永井登志樹副会長の評だ。男鹿半島や鳥海山周辺などで描いた数多くの図絵を残しているが、鳥瞰(ちょうかん)図の画法で描かれているのが特徴。風景の中に「地形」を見ている。
当時のナマハゲ行事の描写や三内丸山遺跡の場所で既に多数の土器類を発見した記録など、興味深い。
三弥井書店03(3452)8069=2916円。